神は死んで、君は生きてる






ウィンターカップが終わったあと、赤司と紫原は二人で会う時間が少しだけあった。大会後の会場近くで、赤司は疲労が残るのか、それともまた別の理由なのか、ちょっと疲れた顔をしていた。紫原は観戦していただけなのだけれど、やはり疲れた顔をしていた。二人は挨拶もそこそこに、「寒いな」だとか、「寒いね」だとか、そういう試合に関係のない話をした。そして、紫原はぽつりと「俺、昔本気で赤ちんは神様なんじゃないかって思ってた頃があったよ」と言った。赤司は「なんだい、それは」とこたえた。紫原と赤司は適当なベンチに腰かけていた。そうして二人とも前を向いているのだから視線が絡むことはない。紫原は視線をそのままに、ぽつりぽつりとあぶくを吐き出すように告白しはじめた。

「全部視えてるんだ。そんなの、神様だよ」
「そうでもないさ」
「勝てる気がしなくなった」
「そう」
「そしたらもう赤ちんが神様に思えてきて、俺たぶんこの先ずっと赤ちんの背中追いかけていくんだろうなって、そう思ったよ」

紫原は寒いのか、白い息を吐き出した。告白はそれで終わりらしかった。

「でもそうならなかった」

紫原の言葉に赤司がそう続けると、紫原は「うん」とマフラーに顎をうずめた。

「それはどうして」
「わかんない」
「神は死んだから」
「今日負けたってこと?」
「いや、ずっと昔から死んでいるよ」
「どういう意味」
「さぁ、ただ有名な言葉だから」
「意味は?」
「諸説ある。覚えていない」
「赤ちんでもわからないことあるんだ」
「オレは神様じゃないからね」

紫原は白い息に混ぜるように、「赤ちんは神様じゃない」と呟いた。そうして、やっと赤司の方を見た。赤司も紫原の方を見た。こうやって見つめ合ったのはいつぶりか、もう思い出せない。視線が絡んで、しかし火花は散らなかった。ただけだるげな重さがそこにはぶら下がっていた。

「だから赤ちんは生きてる」

紫原はやっとわかったように、そう言った。ずっと待っていた日が今ここに来たかのように、そう言った。赤司は静かにうなずいて、目を細めた。「やっと生きている心地がするよ」と笑いながら、そう言った。紫原は「うん」と頷いた。やっと二人で歩いていけるのだと、そう思った。


END


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