だから心臓は形を変えていくばかりだ






日高と弁財は煙草を吸おうとベランダへ出た。仕事も終わり、自室の帰ってきたところだったのだ。秋山が今日は遅番だったので、日高が弁財の部屋にお邪魔している。弁財は自分の煙草を取り出すと、日高が取り出したのが見慣れない煙草だったのに首を傾げた。

「いつものキャスターじゃないのか?」
「あ、今日秋山さんにもらったんですよ。俺には無理だったって。なんか煙草専門店に行ったらしいです。そこで面白そうだったから買ってみたらしいんですけど、匂いがダメだったらしくて。甘ったるいらしいですよ」
「…ブラックデビル…秋山もまた…厨二煙草を…」

日高が持っていたのはブラックデビルという銘柄の煙草だった。パッケージは濃いグレーで、可愛い悪魔のような箔が押してある。パッケージを開けると、フィルターも紙も真っ黒な煙草だった。ビジュアル系の人に人気の煙草らしい。ちなみに弁財はベヴェルだった。普通の煙草よりも少し細長い煙草で、癖がないやつ。

「秋山のやつ、早く病気が治るといいんだが」
「秋山さんなにか病気なんですか?」
「ああ…誰しもが中学二年生あたりに患う病気だ」
「水ぼうそうみたいなもんですかね」
「そんなものだな」

日高が何の気なしに、いつものように煙草に火をつけると、途端に周囲にとんでもなく甘い香りが漂った。弁財は苦手、というほどでもないが、煙草らしからぬその匂いに眉を寄せた。

「すごい匂いだな」
「…ですね。味もめちゃくちゃ甘いですよこれ」
「秋山には無理だろうな」
「俺は嫌いじゃないですけど」
「そうなのか」
「まぁ…リピートするほどじゃないですがね。やっぱりいつものが一番です」

日高は二口目を吸って唇をなめると、何かに気付いたらしい。「弁財さん」と弁財に声をかけると、そのまま弁財にキスをした。弁財は不意打ちだったので、少し固まってしまう。

「唇、舐めてみてください」
「…ん、あ、甘いな…なんだこれ」
「なんか、フィルターにも甘いなんかが塗ってあるっぽいですよ、この煙草」
「…そうか」

弁財は自分の煙草をくわえ直しながら、日高の方をちらりと盗み見た。日高はなんでもないことのように、その黒い煙草を興味深げに吸っている。あたりにはもう甘ったるい匂いが立ち込めていて、頭が痛くなりそうだった。弁財は煙を吐きながら、これだから日高は、と思った。思うだけで口には出さないけれど。


END


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