Hero never comes






秋山は子供の頃ヒーローになりたかった。そんな夢を抱いていたのは幼稚園児の頃までだったが、秋山はテレビアニメや特撮ヒーローの番組を見ながら、将来は自分もこうなりたいと思っていた。母親に変身ベルトをねだってみたり、友達とごっこ遊びでヒーローをやったりもした。しかし小学校の高学年になる頃には秋山の夢は警察官というヒーローに近いような、近くないような、そういう庶民的なものになり、高校を卒業するころには国防軍を目指すようになっていた。国を守るヒーローだ。しかし最終的に秋山がたどり着いたのはセプター4という場所で、そこでは年下の上司に顎で使われている。ヒーローとはなんぞや。秋山はふと考えた。

ヒーローという生き物は誰かのピンチに颯爽と駆けつけて、それを助けてお礼も受取らずに帰っていく生き物だ。正体はみんなに隠し、影から世界を守っている。けれど最終回には世界を救うために大活躍し、結果として世界が救われて万々歳。お決まりなシナリオだ。たまにやられる時もあるけれど、最終的には勝つし、正義を味方につけている。ついでにヒーローにはちゃんとヒロインもいて、二人はとても仲好く、最終的には結ばれることが多い。ヒーローっていうのは、こういうものだ。秋山の中にはちゃんとヒーロー像が存在している。

けれどそのヒーローと自分を比べた時に、秋山は肩を落とさずにはいられないのだ。今の自分なんて、誰かのピンチに駆けつけることはあっても、一人でどうにかするわけじゃないし、なんなら下っ端もいいとこである。お礼は給料として手に入るし、正体だってバレている。世界なんて大層なものはまもっていないし、隣にいるべきヒロインも存在しない。じゃあ自分はなんなんだ、と考えると、セプター4の隊員、という答えしか返ってはこない。なんだかむなしくなる。

ヒーローなんて、この世にいないんだろうな、と秋山が思い始めたのはいつからだったろうか。小学校の中学年くらいかもしれない。少し早目だったかもしれない。結局、そんな都合のいいものはこの世界に存在しないし、困った時だって誰も助けてくれない。世の中そんなものだ。自分でどうにかするしかない。正義だって決まっていないし、なんならこの世界の人の大半は何かしら悪事を働いている。秋山だって、そうだった。善良と胸を張ることは少々難しい。未成年で飲酒くらいはしたものだから。

「じゃあもう悪役になったっていいんじゃないかって思ったんです」
「…ふうん」

秋山は今、伏見の上に乗っかっていた。合意ではない。伏見はそう抵抗するでもなく、秋山に押し倒されるままになっていた。秋山は伏見の眼鏡を外しながら、「ヒーローの登場でも待ってみます?」と少し怖い顔でそう言った。伏見は「ヒーローなんかこねぇよ。俺は悪者だからな」と皮肉に唇をゆがめた。どっちも悪者だ。ヒーローなんか、一生やってこない。


END


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