融かされない距離






社会人、大学生パロ
黄瀬:高卒で社会人四年目(モデル)
緑間:大学四年生(医学部)
どちらもバスケ選手は引退してます。













思わぬ相手から電話がかかってきた。真夜中の話だ。緑間は不審に思いながらそれを受けると、電話の向こうからは少しだけ低くなったが、それでも相変わらずやかましい声が聞こえてきた。黄瀬だった。内容は簡単なもので、撮影が長引いて終電を逃したから泊めてほしいというものだった。日付は土曜日で、もうすぐ日曜に変わろうかというところだったので、緑間は少し考えてから「構わないのだよ」と答えた。黄瀬は駅近くのコンビニまでなら道がわかるというので、そこで待ち合わせることにした。緑間は部屋着だったので、簡単な服に着替えた。二年ぶりに顔を合わせる。それまでラインのグループトークくらいでしか黄瀬を目にしていなかった。それから、雑誌の表紙。黄瀬は立派な社会人になっていた。緑間は今六年制の医学部の四年生だ。実習やレポートが込み合っていて、なかなかに忙しい日々を過ごしている。華の大学生とは縁遠い勉強漬けの毎日だった。グループラインに入っているのは基本的にキセキの世代の面々だったが、黒子の招待で火神も加入していた。火神は現在アメリカ、青峰は日本のプロリーグ、紫原、赤司、黒子は大学のバスケ部に所属しており、いつも話題はバスケのことだった。緑間は選手から遠ざかっており、そのラインのやりとりがうとましくもあり、うらやましくもあった。黄瀬も同じく選手からは遠ざかっている。高校卒業後は芸能界での仕事に専念するためにバスケ選手を引退し、テレビのバラエティでもよく見かけるようになった。仕事の方は順調らしい。今度映画出演も決まったと聞いている。

「あ、緑間っち、久しぶり」

そんな黄瀬だったが、見た目と雰囲気はそう変わっていなかった。黄瀬はそこまで華美ではないが、質のよさそうな服を着て、コンビニのネオンを背に立っていた。緑間は「久しぶりなのだよ」とそれにこたえる。眼鏡のブリッジに指がいった。その指にはもうテーピングは巻かれていない。巻く必要がないからだ。

「いやー撮影終わったの今さっきで。終電間に合わないし、知り合いには連絡つかないしで大変だったんスよー」
「タクシーという手もあっただろう。最近仕事には困っていないように見えたが」
「まぁ、そうなんすけど、そういや、緑間っちこのあたりに住んでたなって思いだして」
「俺はホテル替わりか」
「いやいやそうじゃなくって」
「ではなんなのだよ」
「久々に顔みたいなーと思ったんスよ」
「二年振りか」
「もうそんなになるんスか。ま、お互い忙しいから」
「他の面子は何かと顔を合わせているらしいがな」
「あれ、緑間っち他ともあんま顔合わせてないんすか?」
「忙しいからな」

緑間の返答に、黄瀬は少し違うことを思ったし、緑間もなにか後ろめたいことを隠すかのように「アパートはこっちなのだよ」と歩き出した。歩き出してからも、黄瀬は何かと話を振ってきた。最近何をしているのかとか、他の面子がどうとか、仕事がどうとか、その口からは色々な話題が水のようにあふれて、緑間はそれにそっけない返事ばかり返していた。そうして、そんなやりとりを一通りしてから、黄瀬の話題からひとつ、重要なものが欠けているのに気が付いた。唯一、これまで二人を結びつけていたものが、欠けてしまっていた。緑間はそれに気が付いたとき、何の気はなしに、「お前は他の面子とバスケをしているのか」と尋ねた。黄瀬は少し黙ってから、「いや、誘われはするんすけど、忙しくて」とありきたりな答えを口にした。そこにはわずかに引け目のようなものが滲んでいて、二人しておかしくなってしまう。他の全員がまだバスケを続けている中で、二人はもうバスケをやめて、別々の道を歩んでいた。そこにバスケを持ち出したら、その歩みがどこかで止まってしまうような、もしくは止まってしまったときの言い訳にしてしまいそうな、そんな気がしていたのだ。そうしてから、不思議な気持ちになった。バスケだけでつながっていたはずなのに、バスケをやめた二人がこうして顔を合わせていることに。緑間も、黄瀬も、そのことに思いいたったらしく、少し会話がぎこちなくなった。きゅうに、何を話していいのかわからなくなったのだ。緑間の話す話題は黄瀬には難しすぎたし、緑間はテレビも雑誌もあまり見ない。近況の報告が終わったら、あとは言葉に詰まるばかりだった。こんな調子で、一晩を過ごすことができるのだろうか、と緑間は思った。しかし、もうあとは風呂に入って寝るだけだった。この道だけが問題なのだ。緑間のアパートは駅から少し離れている。歩いて15分程度の道のりだったが、それがやけに長ったらしく感じられた。その道の長さのぶんだけ二人の距離もいつの間にか離れてしまっていたのだなぁと思い、やけに感傷的な気分になった。

「明日も仕事か?」
「いや、明日はオフっスよ」
「俺も大学が休みなのだよ」
「遊びにでも行く?」
「…もうここで、バスケでもするかという選択肢がないあたり、俺たちはあまり仲が良くないらしい」
「言おうとは思ったんすけど、なんか」
「俺もそうだ」

そう言って笑っていたら、緑間のアパートについていた。安いアパートだ。黄瀬はきっともっといいところに住んでいるのだろう。明日は何をしようか、と考えて、緑間も黄瀬も、バスケのことしか頭になかった。捨てきれないものだな、と苦笑する。結局はそれだけで繋がっていたものだったから。


END


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