恋とは呼べないスカラー






休日の朝、伏見はいやに早く目が覚めてしまった。仕事をしているとその生活リズムが身についてしまう。ほんとうは二度寝をしてしまってもよかったのだけれど、どうにも夢見が悪くて、その日は大人しく起きることにした。休日が長いことはいいことだ。伏見はまだ自分にまとわりついている眠気を追い払ってしまおうと、洗面をし、歯を磨いた。それから、朝食はいらないがコーヒーが飲みたくなって、給湯室へ向かった。すると、そこには先客がいた。日曜の、それも朝6時に、である。伏見ははじめ秋山かと思ったが、秋山は朝が弱いことで有名だった。なので加茂か徹夜明けの榎本だろうと踏んでいたのだが、そこにいたのは弁財だった。

「おはようございます。伏見さん、早いんですね」
「…徹夜明けっすか?」

秋山も朝弱いのだけれど、弁財も朝弱いことで有名だった。だからいつも加茂あたりがいつまでも布団でぐずぐずとしている二人を起こしにいくのだ。道明寺もなかなか起きてこないのだから賀茂の苦労は計り知れない。

「いえ、今日はなぜか早くに目が覚めてしまって。コーヒーでもいれようかと。伏見さんもいかがですか?」
「…いただきます」

伏見はインスタントでいいかと思っていたのだけれど、弁財はもうお湯を沸かして、マグカップにドリッパーを置いていた。コーヒーを適当な分量いれてお湯を注げば、ため息の出るようなにおいが立ち込める。新しい豆らしく、その香りは随分強かった。

「昨日ひいてもらって、さっき開封したばっかりなんです。なんだか贅沢ですね」
「…俺はインスタントか缶派なんで、そういうのはあんまりわかんないです」
「ドリップに慣れると、インスタントや缶のブラックは飲めなくなりますよ」
「そんなもんっすかね」

弁財は少し笑いながら、伏見に「どうぞ」といれたてのコーヒーを渡した。伏見は「どうも」とそれを受け取った。寝起きなせいか、いつもより壁が薄くなっている気がする。弁財はその隙間にすっきりとおさまって、ゆるやかに伏見の脚を止めさせた。弁財はものぐさに、流しの前でコーヒーを飲み始める。よくみると髪の毛に寝癖がついていた。秋山と弁財の二人は案外だらしないところがある。伏見はまぁ自分も似たようなものか、と少し跳ねた後ろ髪を撫でつけた。

「早起きもしてみるものですね」

ふー、と、コーヒーの湯気をけだるげに流す弁財は、長身もあいまって、なかなか絵になった。伏見は否定する気はなかったのだけれど、眠気がさっぱりと洗い流されたので、「そうでもないです」と、ぼそぼそつぶやいた。たった一分でも、そこにとどまってしまった自分が憎たらしかったものだから。


END

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