あったりなかったりするカミサマ
俺はカミサマってやつを存外信じたことがない。カミサマってやつにはわりと祈ったりするけれど、その祈りが届いたためしはそんなにないし、初詣で祈ったことが叶ったためしもない。今年はとりあえず高校受験がうまくいきますようにと願ってはみたけれど、願ったって何したって結局、努力したからこの高校には入れたのだと思っている。カミサマってやつは一応神道だかなんだからしいけど、うちは仏教では曹洞宗だし、クリスマスも祝うし、なんならハロウィンだって楽しんでいる。カミサマはキリストとごっちゃになっているし、日本のカミサマなんてものは名前も知らない。中学の修学旅行で行った奈良で、なんだかよくわからない神社行ったのは覚えている。そこのカミサマの名前は「たかおかみのかみ」というらしい。漢字は絶対書けない。ケータイの変換でも出てこなかった。けれどなんだか名前に親近感を持ったので、それだけは覚えている。なんのカミサマなのかまではもう覚えていないけれど。
「今日のラッキーアイテムは将棋の駒なのだよ」
真ちゃんはウィンターカップの準決勝の日、そう言って角と書かれた将棋の駒を握っていた。どうして角なのか、俺にはわからなかった。将棋っていうものが縁遠いものだったので、他にも何か強そうな「王」とかあるんじゃないかって思ったけれど、そういえば今日の対戦相手は「開闢の帝王」だったか。王に対抗するには王じゃだめなんだろうなぁとありきたりなことは思った。けれど将棋って王様をとったりとられたりするゲームではなかっただろうか。じゃあもう一人王様がいるはずだ。ああ、でもそうしたら秀徳は「歴戦の王者」とか呼ばれてたっけ。王がふたつ揃ってる。カミサマってやつは意外に粋な計らいをするものだ。
「将棋に王はふたつもないぞ」
「え、そうなの?」
「王と玉だ」
「へぇ、どっちが強いわけ」
「どちらも同じだ。ただ実力的に強い方が王を持ち、弱い方が玉をとる。実力でない場合も多い」
「ふーん。赤司に、真ちゃんは王をとれたことはあんの?」
「…今日、とればいいだろう」
「それもそうだ」
真ちゃんは大事そうに角の駒を握った。真ちゃんは怖いくらいカミサマってやつを信じている。いつか壊れちゃうんじゃないかってくらい。けれど同じくらい、カミサマは真ちゃんを愛している。真ちゃんはカミサマに愛された存在なんだと、真ちゃんのシュートを見るたんびに思う。俺は口の中で「たかおかみのかみ」と呟いた。いつか真ちゃんのカミサマになれたらいいなあと思うカミサマの名前だ。
END