絶滅危惧種に人間が登録された日






※帝光時代、赤司2年、虹村3年くらい



虹村は校内の廊下を歩いているときに、見知った顔を見つけた。昼休みの、職員室付近だった。

「赤司」

虹村が声をかけると、赤司は熱心に掲示板に注いでいた視線を虹村の方に向けて、すぐに身体ごと向き直った。そうして、「お疲れ様です」とありきたりに一礼した。虹村はそれに「お疲れ」とまたありきたりに返して、赤司が見ていたらしい掲示物に視線をやった。掲示板にはコラム的な記事が載せられた新聞のようなものが貼り付けられていた。一ヶ月ごとに張り変えられる新聞だ。今月の特集は稀少動物についてのものだった。赤司は「案外面白いですよ」とその記事を指した。虹村が大きな活字だけ追ってみると、世界にはひとつがいしか存在しない動物もいるらしい。そういうことが危機感を煽るような文面で書かれていた。

「恐竜はこういうふうに保護されなかっただろうな」
「その頃は人類が存在していないですし、活版印刷が普及するのはそれより気が遠くなるほどあとの話ですしね」
「こういう動物は存在してるだけで価値があるもんだな。羨ましい。こう言ったらあれだけど」
「進路指導帰りですか?」
「…お前と話してるとなんでも見抜かれそうでこえーよ」
「そんなことはないですよ。けれどまあ、どうなんですかね、そういうのも。世界に言葉が通じる人が…動物、ですかね。そういうものが存在しなくなって、ひとりぼっちになってしまうっていうのは」
「こわいこと思い付くな、お前」
「そうですか?だっていつか人類だって絶滅するんですよ。その最後のひとりになる人はどういう気持ちなんですかね」

赤司は手遊びをするように、記事の写真を撫でた。そこにはどこか寂しげに寄り添いあっている二匹の動物が写っている。虹村は少し想像力をはたらかせてみたが、そんなたぶん気の遠くなるような未来のことは思い描けそうになかった。だからありきたりに、「寂しいんじゃねーか」と返す。

「他の動物に管理されているかもしれませんよ。宇宙人とか」
「案外お前想像力あるな」
「そうですか?言ってみただけです」

赤司はそう言ってから時計を確認した。そろそろ昼休みが終わる頃だった。虹村もつられてそれを見て、「授業始まるわ」と言った。赤司も「そうですね」と返す。最後にコラム記事を一瞥してから、「オレも少しだけ羨ましいと思いましたよ」と言った。その言葉は気取りがなく、心からのため息のようだった。虹村はじっと考えてから、「やっぱ俺はごめんだわ。ひとりじゃバスケもできねーし」と口を尖らせる。赤司はちょっと寂しそうに笑ってから、「では」と一礼して踵を返した。二年の教室の方にその背中は遠ざかっていく。虹村はその場にまだ立ち止まって、絶滅危惧種の気分にひたった。今ならその動物の気持ちが、なんとなくわかる気がしたのだ。


END


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