僕らは知らない、知ることはないだろう











※嘔吐表現あります














「ゴッティーさ、なんか泣ける映画とか漫画とかそういうの知らない?」

寮の二段ベッドで、日高は寝転がりながらそんなことを言った。五島はそういえば日高の涙なんてものは久しく見ていなかったなぁと思いながら「僕、そういうのに興味ないから」と答えた。

「何、なんか泣きたいの?」

五島が尋ねると、日高はベッドでもぞもぞと「いや、なんか、自分に涙腺があんのかないのかわかんなくなって」と答えた。五島はちょっと考えてから、「簡単に泣ける方法教えてあげようか」と言った。日高はベッドかもぞりと起き上がって、「なにそれ」と言った。五島は「魔法があるんだよ。手っ取り早く泣ける魔法」と言って、いつものようにんふふ、と笑った。

五島はとりあえず、と夜食用のカップ麺を取り出してきて、お湯を沸かした。それを日高の前に置いて、「食べて」と言った。日高は半信半疑といった様子で、しかし小腹が空いていたのかそれをすぐに食べた。ぺろりと平らげた。そうしたら五島が「じゃあこっちきて」と日高をトイレの方に引っ張っていき、便器の蓋を持ち上げた。日高が「おい、ちょっと待て」と言う前に、五島は問答無用で日高の口に指を突っ込み、吐けるような場所をうまく中指と薬指で押してやった。すると日高は面白いようにさっきのラーメンを吐き出して、まだ気持ち悪いのかえづいてえづいて、最後には胃の中身が空っぽになるまで全部を吐き出してしまった。そうして便器から顔を上げた日高の頬は涙でいっぱいになっていて、なんなら鼻水まで垂れていた。ぐちゃぐちゃになって、本当に泣いているようだった。日高は「なにすんだよ」と言ったが、五島は「ほら、泣けたでしょ」といって笑った。日高はとりあえずぐちゃぐちゃの顔面をどうにかしようとトイレットペーパーで顔面をぬぐったが、涙だけは止まってくれなかった。

「なぁ、ゴッティー、どうしよう、これ、とめかたわかんねーよ」

日高の泣いた笑顔に、五島は「さぁ、僕も知らないな」と答えた。日高の目からは涙だけが溢れて、流れて、すっきりと透明になっていた。止め方も忘れてしまった涙はどこへ行くのだろう。五島はそんなことを想いながら、とりあえず日高の頬をぐいっとぬぐってやった。冷たい掌で。


END


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