ブルーモーメントに晦む






徹夜明けというものはなかなかに頭がぼんやりとしているくせに色々とハイテンションになってしまっているものだ。まだ夜は明けていなかったが、日高はこのまま寮に戻って布団に入ったなら翌朝は確実に寝坊するだろうということがわかっていた。だから一緒に残っていた伏見がひと段落ついたのを見ると、「一緒に星でも見に行きませんか」と言った。外は綺麗に晴れていて、もうすぐ夜明けだったがしかし、明けの明星くらいは拝めそうだった。季節は夏で、今の時間帯ならば真夏のオリオンが観れるだろう。伏見は少し考えるそぶりをしてから、「いや、いい」と言った。しかし日高が「息抜きしないと明日辛いですよ」と言うと、「もう今日だけどな」とは返した。それから、日高がまとわりつくのが鬱陶しかったのか、「夜明けまでだからな」と言った。

日高と伏見はいつだったか、真冬に天体観測をしたことがあった。そのときはハイスペックな望遠鏡があったが、それは日高がもとの持ち主に返却してしまっていた。その時その人物は「星は見れたかい」と尋ねてきた。日高は「見れましたよ」とだけ答えた。そうしたら、そこから何かくみ取ったらしい彼は「そう、それはよかった」と返して、へらりと笑った。それで会話は終了だった。

日高と伏見はがちがちになった背筋をどうにか伸ばしながら、その冬に天体観測をした公園までやってきた。夜明けが近いのか、辺りは薄青く輝いている。新しい朝がやってくる前のこざっぱりとした空気がよかった。気温もそこまで高くない。むしろ涼しいくらいだった。日高は「あれ、金星ですね」と明るく光る星を指さした。伏見は「そうですね」と自販機で買ったブラックコーヒーに口をつけながら、ぼそぼそと言った。真夏のオリオンももう青白い光に照らされて霞んでしまっている。日高はあの真冬を思い出して、あれから自分たちは少しでも前に進むことができたのだろうかと思った。そんなものの答えはそこらに転がってなんかいないので、想像するしかないのだが。しかし、今も日高と伏見は何の気はなしに星を見に来ている。それだけでいいような気がしていた。

「あ、月が沈みますね」

日高は金星とは逆の方向に沈んでゆく白い月を指さした。今日は満月だったらしい。まあるくてのっぺりと白い月がそこにはあった。太陽の光をうけてほの白く発光している。真昼の月とはまた違った輝きだと思った。日高はそれをじっと見つめてから、「そろそろ太陽が出てきますね」と言った。太陽が昇ってきたら、星は見えなくなる。しかし、日高はもう見えずともそこにあるのだとわかっていた。伏見はただ「ああ」とだけ返した。月が晦る。一晩の役目を終えて、また夜には昇ってくる。その少し欠けた月を、日高は伏見とまた見てみたいなぁと思った。ブルーモーメントもそろそろ終わりに近い。朝がやってこようとしていた。


END


やなはさんへ

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