噛み付くほどに






火神は朝起き上がった時に首筋のあたりや脚の付け根のあたりにじりじりとした痛みを感じた。心当たりは火神の隣でいまだに鼾をかいて寝ていたので、火神は痛む場所を触ってみてから、そろりとベッドを抜け出した。

火神はそのまま洗面台のところへ行くと、嫌な臭いがこもっている口をゆすいで、歯磨きをした。そしてついでに顔も洗って、ひげも剃った。そうしてさっぱりとした心持と顔になってから、シャツを適当に脱いで、痛みのある部分をまじまじと鏡にうつしてみた。そこには赤く腫れた噛み痕がついている。青峰の歯のかたちをしていた。青峰には噛み癖があるのだ。火神は噛まれるのがあまり好きではなかった。昔犬に噛まれた嫌な思い出があるからかもしれないが、とにかく痛むし、目立つ場所だと気を遣わなければならない。しかし青峰はそんなことは知ったことかとセックスするたんびに火神に歯型を残した。スウェットをずらしてみてみると、太もものあたりにもちらちらと赤い跡が見えた。火神が溜息をついてあたりに、「おい、何してんだ」という不機嫌な声が聞こえた。もちろん青峰だった。火神はスウェットをもとにもどすと、「起きたのかよ」と不機嫌な声を作った。不機嫌なのはこっちなのだと主張したかったのだ。

「朝起きたら起こせっつったよな、昨日」
「このあと起こすつもりだったんだよ」

青峰はそういう意味ではないという顔になったが、火神が不機嫌そうなのと、首のあたりにきっちり残っている歯型とを見て、溜息だけついた。青峰は苦手なのだ。朝起きた時に夜一緒に寝た人物がそばにいないということが。青峰は火神の首筋に手を伸ばして、赤く腫れているそこに指を添えた。火神は痛むのか「なんだよ」と首を捻った。

「痕残ってる」
「残したの間違いだろ」
「そうかもな」

青峰はもう一度「そうかもな」と言ってから、そこに今度は舌を這わせた。寝起きの、少しだけ汗のにおいがついた肌の味がした。火神はぴくりとだけ反応して、「噛むなよ」と言った。青峰は「ああ」と答えて、そこに甘く歯をたてる。噛むことはしなかった。ただ、火神の肌の弾力だけたしかめた。そこから首の付け根にキスをして、耳にキスをして、腰に手をまわした。火神は「しねーからな」と言いつつ、されるがままになっている。青峰は火神を壁に押し付けて、磨いてないままの口でキスをした。火神の口からは清潔な歯磨き粉の香りがして、青峰の口は少し生臭く、青峰の青峰なままなにおいがしていた。舌をからめて、髪の毛をぐちゃぐちゃにして、舌を噛んだ。火神は青峰の唇が離れてから、息をするために青峰の肩口に鼻を押し付けた。それから、すうと息をして、その鼻を青峰の首筋のあたりまでもっていった。そして、思い立ったように、もしくは復讐をするように、青峰の首筋を、噛んだ。はじめは甘く歯を立てるばかりだったのだけれど、そこからじりじりと力を入れた。どうしてそんなに力が入ってしまったのか、火神にもわからなかった。けれど歯に感じる青峰の浅黒い肌が、心地よく、そして、そこから染み出してくるものが、甘ったるくていけなかった。火神は角度を変えて、何度か青峰の首を噛んだ。青峰はそのたんびに少し息を出した。文句はつけなかった。火神はしばらくそれを続けてから口を離し、青峰の首のところについた歯型の深さを、指でたしかめた。そうしてから、納得がいったように、「これ、癖になるな」と言った。噛みつくほどに。


END

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