虚飾症






「お前の服、もうちょっとどうにかなんねーの」

そんなことを言ったのは灰崎だった。灰崎は黄瀬のベッドに横になり、上半身裸で身体を投げっぱなしにしていた。我が物顔で居座っているが、ここは黄瀬の部屋だった。両親がいないのを見計らってベッドにもぐりこんでいたのだ。黄瀬はベッドの渕に背中を預けて、雑誌を読んでいる。さっきまで息遣いが荒くなるようなことをしていたとは思えないほど、二人のあいだにはさっぱりとした空気が流れていた。灰崎とは対照的に、黄瀬がしっかりと外出できるような服を着込んでいたからかもしれない。

「自分の部屋にいるのになんでそんなめかしこんでんだよ。脱がせづらいだろ。お前自分じゃ脱がねーし」

灰崎はそう言いながら、黄瀬の首のあたりにまとわりついている布を引っ張った。黄瀬は「別に脱がせろなんて言ってねーよ」と言って、雑誌のページをすらりとめくった。

「脱がなきゃできねーだろ。お前の服複雑なんだよ。ジッパー下げても脱げなかったり、身体にぴったり張り付いてて全然脱げなかったり。もう自分で脱げよ」
「俺は別に脱がなくてもいいから」
「服なんて邪魔なだけだろ」
「ショーゴ君だけ脱げばいいだろ。俺は別に脱がなくていい。間抜けな絵面でそっちの方が楽しそうだ」
「めんどくせーよ、お前」

灰崎は黄瀬の服を引っ張っていた手からだらりと力を抜いて、少し汗のにおいがするベッドに顔をうずめた。黄瀬の服は華美でもなく、地味でもなかった。しかし、きっちりとめかしこまれていた。これから意中の女性とデートでもするかのような装いだった。灰崎は自分が黄瀬の意中の相手ではないとわかっていた。しかし黄瀬は灰崎と会うときにだって気を緩めた格好をしなかった。それは病的なまでにそうだった。気の抜けたところがひとつだってない。黄瀬の髪も、肌も、爪も、きちんと整えられていた。女かと思うほど、黄瀬は自分というものを磨き上げていた。刃こぼれするのではないかというくらい。灰崎は枕に顔をうずめて、半分だけの目で黄瀬を見た。そうしているうちに、黄瀬のつれない背中に、何かを見つけた。それはジッパーに似ていて、きっと、それを下ろしたらほんとうの黄瀬が出てくるように思われた。しかし、そのジッパーはきっと、ずっと、あげられたままなのだろうとも思った。灰崎は半分眠ったような声で、「なあ、その服、お前、自分で脱げるのかよ」と尋ねた。黄瀬は答えなかった。


END


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