痣になれたら跡になれたら傷になれたら、ただ愛せたらいいのに






「あんた、見ない顔だな。最近きたのか」

そう言ったのは御手杵だった。同田貫は慣れた様子で、「ああ、俺は同田貫正国。一応、よろしく」と返した。きりきりとゼンマイを巻くように。

この本丸の御手杵はどこか浮世離れしていて、どこかぼんやりとしている。すらりと背が高く、しかし細長いわけではない。きちんと筋肉が隆起しているのが服の上からでもよくわかる。そんな格好のついた見た目とは裏腹に本人は抜けていて、よく鴨居に頭をぶつけてはのたうっていた。

月曜日、御手杵と同田貫は出陣だった。ふたりはそれぞれ武勲をあげた。誉こそ他のやつだったが、それでも第一部隊に組み込まれて、ぞんぶんに腕をふるった。御手杵は「あんた最近きたにしてはやけに練度が高いな」なんて言っていたが、同田貫は「ああ、まあな」なんて適当なことを返した。

火曜日、御手杵と同田貫は手合わせだった。戦は今日は休みで、それぞれがそれぞれ、好きなように過ごしていた。御手杵と同田貫は疲れ果てるまで好きなだけ手合わせをした。そうしてから、「やっぱりほんとうの武器で、ほんとうの戦場じゃなけりゃ、おもしろくない」なんてことを言い合った。御手杵はひとしきり話し込んだあと、「俺、あんたとはずいぶん昔っから知り合いな気がする」なんてことを言い出した。同田貫は「さあ、そんな記憶はねーな」と言った。

水曜日、御手杵と同田貫は遠征に出された。半日がかりの鎌倉だ。朝はやく出立して、日が暮れてから帰ってきた。他の仲間もへとへとだったが、成果はそれなりにあった。それから、道中はなにかと話題がつきなかった。御手杵は「あんたとの遠征ははじめてだったけど、わるくねーな」と言った。その言葉に周りは妙な空気になったけれど、同田貫だけはしれっとして、「戦が一番だけどな」と返していた。

木曜日、御手杵は留守番で、同田貫だけが夜戦に出た。御手杵はさんざんっぱら、自分も行くとごねたが、こればっかりはどうしようもない。御手杵は夜目がきかないし、室内戦もあるので槍は不利だ。子供のように同田貫が行くんなら俺もいくんだ、という御手杵をみんながなだめすかした。青江が「君たちほんとうに仲がいいねぇ」と茶化したら、御手杵は「そうだよなあ、不思議だなぁ、おれら、会ってまだ一週間も経ってないのになあ」と笑った。同田貫は笑わなかった。

金曜日、今日は厚樫山に出陣した。肌寒くてじめじめした秋の山だった。霧雨の中、二人は背中を守り合い、命を預け合った。それだけの厳しい戦いだった。ここはもう検非違使が出るようになっており、道中一度だけ遭遇して、その時は肝を冷やした。御手杵の刀装がすべて吹き飛ばされ、丸裸になったりもした。それでもどうにか勝利を収め、誉は御手杵がとった。御手杵は「ああ、今日の戦場はよかった。生きた心地がした。またこんな戦いがしてえなあ」と言った。同田貫は「またすぐできるさ」と言った。

土曜日、二人は非番だった。なにをするでもなく二人で縁側に寄って、ごろごろした。同田貫は刀の手入れをして、御手杵は防具の手入れをした。そのあいだに会話があぶくのようにぷつぷつと浮かんでは消えた。じっと沈黙することもあった。それでも二人は気まずくならなかったし、苦痛も感じなかった。二人でいるとたいへん落ち着くのだ。もとからそこにそれがあったように、ふたりのかたちはぴったりと重なっていた。今日はなにかを察してか、御手杵は目立ったことは言わなかった。だから同田貫も何もいわなかった。これが最後の日だ。

日曜日。

「あんた、見ない顔だな。最近きたのか」

そう言ったのは御手杵だった。同田貫は慣れた様子で、「ああ、俺は同田貫正国。一応、よろしく」と返した。きりきりとゼンマイを巻くように。また、御手杵だけが進まない一週間がはじまる。


END


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -