ユウレイみたいなこわがりさん






同田貫の部屋はものが少ない。少ないがしかし、あるものは同田貫によってきっちりと管理され、手入れをされ、丁寧に揃えられていた。同田貫は見た目とは裏腹に持ち物に関しては神経質なたちで、綺麗に整理整頓しては、すっきりとした部屋のそれらに満足をしていた。同田貫にとってこの部屋にあるものは必要最低限に同田貫が選んだもので、ここは城と同じだった。城にあるのだから、それらは宝物に違いなかった。同田貫は宝物に囲まれて生活をしている。

同田貫に部屋があるのだから、御手杵にだってもちろん部屋がある。しかしその部屋はどうにもちらかり放題で、雑然としていた。服が脱いだままになっていたり、読みもしない本がさんざに散っていたり、文が広がったまんまになっていたりする。御手杵の部屋は同田貫とは対照的だった。いらないものばかり集められており、足の踏み場もない。同田貫がいつみたってそこは片付いておらず、いつも蜻蛉切に小言をくらっていた。粟田口の短刀の部屋の方がまだずっと綺麗だ、と。

そんな折に、本丸で一斉に大掃除を行うこととなった。長谷部がはりきって掲示板にそれを貼り出し、寄り合いの時にもなにかと話を持ち出した。点検も一部屋一部屋行うらしい。部屋が汚い者は片付くまで戦にも出さないという厳しいお達しが出た。これには御手杵もたまらず、同田貫に声をかけて部屋を片付けることにした。御手杵は一軍に組み込まれ、毎日戦漬けのしあわせな日々を送っていたので、それをどうしても手放したくなかったのだろう。

同田貫は部屋の片付けなんざ、としぶったが、御手杵がお前くらいにしかたのめない、蜻蛉切にはもうとうの昔に見放されている、とおいおい泣くものだから、しかたなくそれを引き受けた。同田貫も一軍だった。背中を預け合っている御手杵が、こんなくだらないことでその籍を外されるのもつまらないと思ったこともある。しかしものが溢れかえる御手杵の部屋にたどり着いてみると、わかってはいたが、どう整理をつけたものか、と、同田貫は腕を組んでしまった。

「ぜんぶいらないからさあ、捨てるのだけ手伝ってくれ」
「…いらねぇのか?」
「だってぜんぶがらくただぜ?」

御手杵の発言に、同田貫は少なからず驚いた。同田貫の中で自分の部屋というものは城だった。城にあるものはもちろん大切なのだ。しかし御手杵にとっては違うらしい。御手杵は貰ってきたゴミ袋を何枚も取り出すと、ためらいもなく、その中に部屋にあるそれこれを放り込んだ。それは同田貫が口をあけるほどにはたくさん、次々と。同田貫もそれにつられてゴミ袋をとったが、これは短刀にもらったものではないのか、だとか、脇差連中からのものではないのか、だとかいちいち御手杵に尋ねなければいけなかった。しかし御手杵はそれら他の刀から受け取ったものでさえ、「ああ、そうだけど、捨てるか」と言ってゴミ袋へと放り込む。同田貫には少しばかり理解できなかった。御手杵の部屋はどんどん片付いてゆくけれど、それに反して同田貫の胸の内はなかなか整理がつかなかった。

「お前には大事なもんってのがないのか」

もうあとは箒をかければ体裁が整う、というところまで掃除、もといゴミ袋に諸々を詰め込む作業が終わったところで同田貫がむっつりとそう尋ねた。すると御手杵はなんてことないように、「ない」と答えた。

「人からもらったもんは大事にするもんじゃねぇのか」
「そうかもしんないけど、俺にはその感覚がわからない。なんだか持ってると重たい気持ちになんだ。重たいのは嫌だ。さっぱりしていたい」
「そうはいったって、つもりつもるもんだろうが」
「あんたまでそんな面倒なこと言い出すとは思わなかった。あんたはもっとさっぱりしてるんだと思ってたからなぁ…」
「お前がそんなに薄情だとはおもわなんだ」
「薄情かあ、そうなのかなあ、そうかもしれないなあ、ううん、誤解がある気がするなあ。俺はたぶんさあ、こわいんだよなあ、そうそう、こわいんだ。宝物みたいなものをたくさんつくって、それを一切うしなっちまうのが、きっとこわいんだなあ。だからそういうの作らないようにして、さいしょっからなくす心配をしないようにしてるだけなんだよなあ。これも一種の薄情なんだろうけど、薄情って言われるとちょっと傷つくなあ」

御手杵はそう言って、頭の後ろをかいた。その足元には大切になる前に捨てられた、今となってはゴミとしか呼べないものが山ほど積まれている。同田貫はその中に、自分も幾分か含まれているような気持ちになって、じっとそれを見た。それはちょっとした傲慢かもしれない。けれど、いつかその袋の中に自分も放り込まれるような気がして、同田貫はちょっと、目を伏せた。自分が先にそうしてしまうのか、御手杵が先か、わかりはしなかったけれど。誰にもわかりはしないけれど。

END


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