埋葬/沖土







正しくは違うが、猫を拾った。沖田はちょっと考えてからその猫を『土方』と名付けた。黒い猫である。野良だった。毎日屯所の庭先に来る猫を無理をして捕まえた。何を言われても面倒なので誰にも見せずに部屋に連れ込む。驚くほど猫は暴れた。餌も食べない。水も飲まない。いよいよ副長にそっくりである。その猫は真っ黒な毛並みに緑色の目をしていた。たいそう気持ちが悪い。ぴんと張り詰めたヒゲと細長い尻尾がぴょんぴょんと飛び出して、肢体は全体的にほっそりしていた。それらはしなやかで野生を感じさせる。沖田はその猫をなでようとしては引っかかれた。人差し指の爪の直ぐ下にマーカーで引いたような傷ができる。じくじくと痛んだ。猫は細い鎖に繋いでいた。ぴいんと張った鎖が、緩んでは耳障りな音をたてる。SMグッズを改良した真っ赤な首輪がとても似合っている。その黒猫が解けない戒めを必死で解こうとしている姿はいじらしく滑稽だった。柱に鎖が傷をつける。畳は立てられる爪のせいで白く毛羽立ってしまった。沖田はその光景にフィルターを被せては満足したように笑う。

しかしそれは最初の日だけである。2日3日たつと猫はぐったりと動かなくなった。しかし未だに沖田が手を出すとひっかいてくる。餌も水も目の前にあるというのに、口にしない。馬鹿だ。猫は眠っているように目を閉じている。沖田は手を伸ばしては猫にひっかかれるという行為を幾度となく繰り返した。彼の指には幾筋もの傷が刻まれ、酷いものからは血液が滴っていた。それを猫のように舐めると、染みて、口の中に鉄臭さがひろがる。猫はゆるまぬ警戒の眼差しを向けていた。餌も水も、やはり一口分さえ減っていなかった。

5日経って、猫が死んだ。息を止めてから思う存分撫でてやったけれど、猫は動かない。そこには体温ではなく硬直を始めた骨と肉ばかりがある。乾いた心はついぞ満たされなかった。沖田に罪悪感は無い。ただ、死んでからはじめてこの猫に優しく触れている自分に気付いた。自分はきっと色々なことが手遅れで、やることなすことも一々手遅れなのだ。そう思うと無性にかなしくなった。

「おやすみ、土方」

沖田は土方に墓を作ってやった。屯所の裏で、ちょうど近くにトッシーの墓がある。適当な板に幾分丁寧な字で「土方の墓」と書き付けた。それを墓標にして、土を盛った。律儀な線香が、制服に染みる。

「何勝手に人殺してんだ」
「ああ、土方さん」

背後には土方が立っていた。きっと今日もトッシーの墓参りに来たのだろう。不機嫌そうな目で沖田を見下ろしている。刀は抜刀せんばかりに握られていたが、鯉口は切られていない。沖田は無邪気に「ああこっちの土方さんはまだ生きてらしたんですね」と笑った。頬が、濡れている。


END





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