ストロベリー






「これを履いて町内一周してきたらキッスくらいはしてやんよ」

渡されたのは10cmくらいヒールがあるんじゃないかというような如何にも靴擦れしますよと主張するパステルピンクのハイヒールだった。彼は一体どうしてこんなものを持っているのかしら?そんな疑問より私を高ぶらせたのは彼の加虐心に満ち満ちた御命令だった。私は何を迷うことがあるだろうという勢いで町内一周したわ勿論。そうして血が滲む靴擦れを山ほど作って果たして彼のもとに戻ってきた。ああ痛くて痛くて堪らない。熟れた苺を潰したような色をして私を苛むそれらは、生々しい匂いに包まれて沈黙している。パステルピンクから解放された足はまだまだ痛んだ。まだ透明な靴に締め付けられているような気さえした。ねぇあなたはこの傷をどうしてくれるの?私の中で欲望が沸々と湧き上がってくる。どくんどくんと心臓が高鳴って仕方ない。それにあわせて傷口もどくんどくんと疼いた。

「靴擦れ痛い?」
「痛いわ」
「だろうね」

彼は私を床に座らせると脱ぎ散らかしたハイヒールをそのままに、私の足を持ち上げた。ちょうど王子様がお姫様のおみ足に靴を履かせる格好で。そうしてその中指の爪にちゅっと音を立ててキスしたの。私の心は熱湯のようになってしまって暫くぼんやり彼を見詰めてしまった。熟れた苺から放出されるエチレンに影響されて私の脳味噌までドロドロに熟れてしまう。同じ箱の中の苺は全部熟れてドロドロになっていくの。ねぇ面白いでしょ。

「おまえって可哀想」
「あなたも随分可哀想よ」
「うん、また遊んでね」
「ええ」

私の中から湧き上がっていた感情は急に冷めてただ虚しさだけがわだかまり始めた。熟れすぎた果実が茶色く醜く変貌してしまったあとの張りの無い芳香、色艶。余韻で熱い頬だけを持て余しながら私は痛む足を抱えてまた真っ黒な世界に戻っていくの。音も立てずに腐って、ドロドロになる。それが途轍もなく幸せ。銀さんと一緒にいる時間だけが幸福でスリリングで温かい。ちょうど、踵を濡らした液体のように。


END





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