スタートしてゴールする






高杉のスケジュール帳を盗み見た時、顔も知らない女や男の名前がずらずらと書き込まれていてそしてそれがプッツリと途切れた日に葬式と書いてあった。8月10日だった。誕生日なのに、葬式。誰のだろうなぁと、俺は考える。けれどそんなことよりも浮気してる高杉に腹が立ったのとその時はまだ桜が咲くような季節だったのとで別段気にも止めなかった。けれどプール開きも海開きも終わって夏休み真っ只中になったある日、俺はそれを思い出した。正確には、直ぐそれを思い出したわけじゃない。先にそういやそろそろ高杉の誕生日だったなぁと思い出して彼に聴いたのだ。

「何が欲しい?誕生日プレゼント」
「花が欲しい。赤い花と青い花。黄色もいいな」
「それじゃ信号機だろ」
「まぁ大量の花、用意しといてくれよ」

俺はその時胸騒ぎがしたけれど別段会話を掘り下げるようなことはしなかった。そしてやっと高杉のスケジュール帳を思い出して、葬式という二文字が頭に浮かんだのだ。俺の曖昧な推理だと欲しい誕生日プレゼントが無い高杉が、ある人の葬式にあげる花代を浮かすために俺に頼んだんじゃないかという予想が導き出される。俺はどこまでも鈍くて馬鹿だった。日付は8月6日。その日の晩、俺の家に電話がかかってきたのを覚えてる。






「なぁ高杉。花、買ってきたよ」

ちゃんと見てるか。なぁ。赤に青に黄色。信号機みたいな変な組み合わせの花輪、無理矢理作って貰ったんだぜ。結構高かった。そうだよな、葬式って、死んでからすぐやるから、何ヶ月も前にスケジュール帳に書いてあったなんておかしいよな。もっと、ちゃんと考えればよかった。ポツリポツリと、俺は平面の高杉に語りかけた。真っ黒い服を着た人に押しつぶされるようだ。息が苦しくなる。俺の中には湖があるんじゃないかと疑うほど、涙腺から水が出た。畜生、蛇口はどこだ。

「スケジュール帳さぁ、誰の葬式かと思ったら、お前のだったんだなぁ」

今日は8月10日。高杉晋助の葬式は、白い入道雲に囲まれてしめやかに行われた。


END











ある企画に提出する高杉の誕生日の話を書いていたら思い付いた副産物。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -