焦眉の下で逢いませう






銀時は別段女の顔が好きということはなかった。美人であることに越したことはないが、そんなに顔に拘ることはない。だから彼は今自分が女の顔を撫でていることが不思議だった。ぷっくりと膨れた山脈のような傷跡を中指の腹で辿る。他は陶器のような滑らかさで彼の指に触れるけれど、そこだけが妙に生々しく指先を刺激した。女の睫はくすんだ金だった。その格子の向こうには手前の髪よりもうつくしい銀が潜んでいる。毒のようにそれは身を隠しているのだ。そうしてそれらが合わさった彼女はまるで月のように思われた。月下の橋上でながむる女の美しさは酒に勝る。月が霞んだ。

「銀時、此処は吉原じゃ」
「だからなんだ」
「わっちに触れるなら金を払え」
「最近の女はがめつくてかなわねぇ」

銀時は懐を探るふりだけするが当然そこには極端に軽い財布しかない。もっと探れば吉原らしくコンドームが出てきた。しかし月詠とてそれは承知していた。彼女はただこうして金に感情を乗せる男女の繋がりしか知らない。吉原はこんなにも愛憎が渦巻いているのに、夜は冴え冴えと冷たい。美しい灯篭やネオンが安っぽい熱を添えていた。

「ツケといてくれ」

銀時は安い男がするように月詠に囁いた。彼女がこんなことで騙されてくれるとは思わなんだが何分銀時は自惚れている。月詠の身体から煩い香水はきこえなかった。ただ夜と雨の匂いがする。月色の髪に鼻を押し付けると僅かに花の匂いがした。細い細い糸のようにそれは張り詰めていてけれど柔らかかった。

月詠はうつくしかった。銀時は彼女をどうにかして誉めようと思っていたが、うつくしいだとか綺麗だとか、凡そ彼女に当てはまる言葉の全ては彼女に刃を向けた。ちょうど彼女が今掌に隠しているクナイのように。銀時は考えあぐんでいたがその呼吸の後に月詠の肩に額を乗せた。

「今夜は月が綺麗だな」

カツンと固い音がした。月詠の太夫に死神がつかなければ銀時はすでに五回くらいは死んでいる。彼女の顔に傷があってよかった。銀時はその凹凸を愛おしむように、女の顔に唇を押し付ける。


焦眉の下で逢いませう


END





焦眉(しょうび)→薔薇(しょうび)→ローズ




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