背伸びしろよ、青年/沖神
コツン、カツンと頼りない足音がするそれは沖田の前方からゆっくりゆっくりと慎重に歩いてくる神楽の足音だった。白とプラスチックの宝石で彩られたピンヒール。それにとおされた足は未だ未発達な少女のそれで、白くほっそりと真っ直ぐだった。透明なペディキュアがそのつま先を飾り、いつもとは違う服を着ていつもとは違う日傘を差している。白地に薄紫の模様が入ったワンピースに薄い色の日傘。沖田は夏の日差しの中、ただ呆然と突っ立っていた。
「コレ、かわいいアルか?」
神楽は小首をかしげてみせる。髪はいつもより艶やかで真っ直ぐで、お団子ではなく一房をのぞいて耳にかけられ肩に垂らしていた。白すぎる肌は夏の暑さに晒され、頼りない膨らみの胸を強調するようなデザインのワンピースが、ひらりひらりと翻るたび膝の上まで露わになる。
カツリ、コツリと未だ慎重に歩みを進める神楽は、やっと沖田とあと二歩ほどの距離まで辿り着いた。ピンヒールのジュエルがキラリ、日光を反射する。7センチ弱のヒールは、まだ神楽には高すぎて、フラフラと頼りなくゆれている。首からは汗に混じって甘すぎる香水が香った。
「こんなところで何してんだ」
「お前に見せびらかしにきたアル」
ひらりとワンピースをはためかせて見せる。こんなに華奢だったろうかと思うほど彼女は華奢で、大人になりきれない少女の匂いがした。いくらピンヒールで背伸びしようと、沖田の身長にはまだとどかない。しかし「なんか言えよチビ」といつもの調子で腰に片手をあてる。沖田はどこか狂いはじめた歯車に、少なからず焦りを感じていた。この愚かで、けれど純粋な少女がいとおしくなった。結局どうしようもなくなって、「かわいい」と唇を動かしながら、「ブスが何着たってブスなんだよガキ」と言って、キスしたら、殴られた。
END