腹に潜むゴルゴー/銀桂
桂が夜遊びにくるのは別段特別なことでなく、俺は別段何を考えるということもなく桂を抱いて、朝を迎える。迎えた朝、虚しいということもなくただ、俺はコイツを愛しているのかどうか、それだけを考える。
それを何回か繰り返した、ある晩。桂が突然腹痛を訴えた。酷いようで、唸ったりのた打ったりしている。俺は最初、精液で腹を壊したのだと思い、トイレに連れて行ったが便どころか尿も出ない。そしたら桂が「陣痛だ」と掠れた声で。俺は「馬鹿、ありえねぇよ」と思ったより焦った声が出た。その間桂は「生まれる、」とのたうち回るわ唸るわの大騒ぎで俺はどうしようもなく、急ぎ救急車を呼んだ。
「銀時、銀時」
病院の白いベッドの上で桂は苦しんでいた。俺はというと何もできずにただ桂の白い手を握っている。桜色の爪が食い込んで痛かった。桂は何回か筋肉注射をうけて、漸く腹痛が楽になった頃にはもう朝がそこまでやってきていた。疲れたのか桂は青白い顔で眠っている。俺は医者に呼ばれて息苦しい個室の中。俺達の子供、いま、どうなってる?
「妊娠してたよ」
俺は呆れたような、疲れたような声で言った。
「これくらいの、小さな、こども。」
親指と人差し指から見た桂は呆然としていて、きっと事の顛末を予想しているのだろうと、俺は思った。
「小さな、石。もうすぐ消える」
それが俺達の子供。そう言った時桂は何も言わすただ涙を一筋流した。綺麗な黒髪が顔に引っかかっていて綺麗だなぁと思う。あまりにもかれが可哀想で愛おしくて、思わず頬を撫でた。引っかかった髪を耳にかけてやって、赤くなってしまった目元に唇をおしつける。そうしたら桂が小さな、小さな声で、「墓、つくろう」と言った。俺は「そうだな」と言った。酷く、だるい。寝不足でぼんやりする思考回路が、パチリと一回だけ弾ぜた。
桂が退院してから俺達は近くの共同墓地の隅に石を積み上げた。お粗末な墓石には名前も刻まれずただ石塔としてそこにある。死体は桂の中で消えてしまったので、ない。線香をたいて、手を合わせた。きれいな花も供えてやる。青いのと、桃色。桂はまた泣いて、俺はただ突っ立っていた。「なぁ銀時、こんどは石じゃないこどもを作ろう」「ああ」「この子のぶんも生きるように、」「ああ」俺はどうして泣きそうな気分だった。それがどうしてなのか、解らない。けれど俺は桂がほんとうは何を妊娠していたのか知っていた。それをかれに告知するつもりは、ない。線香のすっとする匂いが立ち込めて、俺はたった一粒だけで泣いた。きっと俺は桂を愛しているんだ、と真昼なのに答を見つける。
腹に潜むゴルゴー
END