スーパーマンは誰を守る/沖神,威沖






※NL、BL混合
















俺はよくスーパーマンを気取ったアンダーを制服の下に着込んでいる。それに意味はないけれど、なんとなく格好いいような気分になってくるのがよかった。気に入らない奴をやっつける力が手に入るような気がして、それは結局気分だけれど存外虚しくはなかった。きっと毎日土方のあのやろうをからかってやっているからに違いない。

そんなヒーローな俺がアンニュイな気分になって放課後の屋上に登ってみたら先客がいた。チャイナだった。俺はチャイナが嫌いじゃない。そいつはぐるぐる眼鏡の下で泣いていた。俺は呼吸が止まるほど驚いたけれどポーカーフェイスを気取ってやり過ごした。チャイナはゴシゴシと、痛いくらいに目をこすって俺に背を向けた。緑のフェンスを握り夕日ばかり睨んでいる。しかし一瞬だけ見たその眼もとも鼻も熟れたトマトのように真っ赤だった。そして頬には痣があった。サンクス俺の動体視力、てめーを恨む。

「どうしたチャイナ」
「なんでもないアル」「お前の兄貴か」
「だったら何」

コイツには暴力兄貴がいてチャイナの腕とか偶に顔にはよく痣があった。気付いたのは最近で道端で暴行されるチャイナを見かけたことからそれが発覚した。ああ怒り狂ったさ。最初はただ仲の悪い兄弟の喧嘩の延長戦だと思っていた。しかし女子の涙には変な作用があるようで俺は唐突にチャイナの兄貴をやっつけてやろうと思ったのだ。スーパーマンのTシャツはこんな時のために着ているのだとその時の馬鹿な脳みそは考えた。



「また遊んでね」

この世界には神なんてものがいないと思った。俺はチャイナの兄貴に「妹苛めてんじゃねぇよ腰抜けが」と喧嘩を売って返り討ちにされた。半端でなく強くてまさにボロ雑巾にされた後「お前、俺の妹に惚れちゃってんだね」と言われてさらにその後犯された。はじめてのセックスは血と精液の臭いがして俺は泣きそうになったけれどちっぽけ過ぎるプライドで持ちこたえた。俺の左腕と肋が二本折れた。そんな怪我より犯されたアナルより切れた口内とか痣とかその他もろもろよりずっとずっと胸のずっと奥が痛かった。スーパーマンのアンダーは土埃と鼻血に汚れて判別がつかなくなってしまった。「もうこれじゃあ恥ずかしくて神楽とセックスできないね」と言われたとき俺は甚だしく憤ったけれど地面と仲良しのまま指一本しか動かせなかった。チャイナの兄貴のツレが情けなのか脱げていたズボンを直してくれてさらにそれが頭にきた。俺はどこまでも果てしなく敗者で向こうは自分たちを勝者であるとすら思っていない。ちくしょうちくしょうちくしょう。

俺はしばらくスーパーマンのアンダーを着ることができなかった。洗ったら綺麗になったのに俺は退院して腕のギプスがとれるまではスーパーマンの称号を胸に飾ることはできなかった。チャイナの頬には痣がなかったけれどきっと心臓よりもっと大切な場所に痣があってそれは薄まることなく今も存在しているんだろうなぁと思った。俺はどうしようもなく情けなくなってちくしょうちくしょうちくしょうとまた呟いた。放課後の屋上へも怖くて行っていない。まだチャイナは泣いているんだろうか。けれど俺のちっぽけなプライドはまだスーパーマンに戻りたがっていて俺の両腕はチャイナを抱きしめたがっている。しかし俺は好きな女一人守れない出来損ないのスーパーマンだった。いったいチャイナを守らないで誰を守るんだ。世界中の誰を守らなくても彼女だけは守りたいなぁと思った。つまり俺はスーパーマンでなくてはならない。


スーパーマンは誰を守る
(答えはひとつ!)


END





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