銀高/現パロ2






夏の、雨の日の夕方だった。夕立だったかもしれない。

俺は初めて採用された高校から早めに帰宅する途中でコンビニのビニール傘片手にぶらぶら歩いていた。湿気の多いこの国の夏は大嫌いで肩が足が濡れるから雨も大嫌いだった。案の定靴下が水を吸って気持ち悪い状態になっている。俺はこれ以上なく不機嫌に帰途を辿っていた。

もう直ぐ住んでいるマンションに到着する。値段は高いが一人暮らしするには少し広めのマイホームもどき。将来の夢は同じ趣味の、つまり同性愛者と同棲すること。ネコなら理想的。タチでも愛さえあればどうにかなるか。とにかく俺はそんな夢を抱いてこのコンクリートの世界を生きている。そしてそのコンクリートの世界の一歩手間、マンションのゴミ捨て場に一人の男が死んだように横たわっていた。何故か。俺に聞くな。

ゴミ捨て場の中にゴミのように丸まった青年が死んだように横たわっている現実。平和と安寧にまろやかに包まれた日常にしてはやけにシュールだ。寧ろ夢だと言われた方がしっくりする。

少年と呼べる体躯の男は、瞼を力無く閉じていてその目はよくみると片方が眼帯で隠されている。家出少年らしくないところは手ぶらなところだけだ。服装は古びたジーンズにTシャツ。そこらへんは至って普通である。

俺は別に足を止めなければいいのに足を止めていてああもうこりゃ救えないな、と自嘲。「おい少年、死んでんのか」と問えば、うっすらと瞼が開いた。切れ長で目つきがたいそう悪い。「誰だてめぇ」「坂田です」「高杉」うん、高杉クンね。

君さぁ、こんなところで何してんの?家出?死ぬの?困るんだけど。ここ俺が住んでるマンションの近くだし、ホラこうして俺はお前と話してる。つまりはお前を助けられたってことにされて警察に事情聴取されかねない。ん?そうだよ俺は自分のことしか考えない。全く面倒くせぇ。なぁとりあえず家くれば?メシくらいは奢ってやんよ。あ、もしかして不良少年?

「変なヤツ」
「お前も変だ」

気付けば俺は頭から爪先まで濡れていてその原因は高杉少年にあった。俺の透明な傘は彼に傾いていたのだ。何時の間にこんなことに。濡れたシャツなんて女子高生のする格好だ、…違うか。傘の傾きを補正しようにも雨はやみそうになっていて(やっぱり夕立だったかもしれない)俺は高杉少年に手を貸すために傘を閉じた。

「少年、立てるか」
「立てないからこうしてるんだろ」
「なら千円で肩を貸してやる」
「タダで背負え」
「仕方ねぇ、五百円な」

どうせ捨てるつもりだった安いビニール傘を高杉少年の代わりにゴミ捨て場に立てかける。燃えないゴミの日がいつだったかは忘れてしまった。あれ、燃えるゴミだろうか、資源ゴミだろうか。

とにかく俺は高杉少年を苦労して背負い上げた。少年からは夏の雨の匂いとすえたゴミの匂いがした。何度でも言うが俺の夢は同じ趣味の人、つまりは同性愛者とあのマンションで同棲することだ。この少年に少なからず期待しているが一歩間違えれば売春という行為に発展しかねない。そもそもこの少年はまだきっと童貞でしかも多分八割方異性愛好者だ。多分俺の夢は夢で終わるだろうけど一時だけでも楽しませてくれよ少年。

少年は力無くうなだれていてそれはゴミ捨て場の傘と見分けがつかなかった。雨はもう晴れて綺麗過ぎる夕日が辺りを橙色に染めている。俺は湿っぽい夏も雨も嫌いだったけれど濡れた体に温い風が少しだけ気持ち良かった。


人の形をした面倒事が背中で浅い呼吸をしてる


運命だとか必然だとか、そういうものは知らぬうちに抱え込んでいるものだと俺は約三年後に気付かされる。


END




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…続きません。
なんとなく出会い編を書きたかっただけ。




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