銀高/現パロ1






「お前が高校卒業したら絶対犯す」

銀時は口癖のようにその言葉を繰り返した。高杉はその度に「なら高校卒業した日に出てってやるよこの変態ホモ野郎」と言い返す。それは日常でだからこそ重要であった。

高杉は銀時の家に住み着いている。高杉に親というものはいない。幼い頃施設の前に捨てられていたのが高杉だ。だが中学の時、世話になっていた施設の運営者に不幸があり高杉は路頭に迷った。そんな時なんの気紛れかひょんなことで彼を拾ったのが銀時だ。銀時は教職についた矢先であったが公務員で独身という現代の貴族的地位にあったため気紛れで高杉を拾ったに過ぎない。そして彼は同性愛者であったからして情夫にしてしまおうという腹がなかったわけではなかった。しかし連れ帰ったところで一向に気を許そうとしない高杉に辟易し当分は断念。とりあえず餌と水と部屋をやって事情が判別するまで世話することにしたはいいが、事情が聞けたのはそれから二ヶ月後のことだった。銀時が思うに高杉という男は不幸の塊だった。人を信用することに不器用でしかし信用したら手放そうとしない。その割に感情表現に乏しくひねくれている。理解するまでは何度家から追い出そうと思ったかわからない。しかし様々な紆余曲折を乗り越え現在は銀時の勤める高校に通わせている。気付けば三年半もこうしてちぐはぐな家族生活を営んでいたわけだ。

そして明日はいよいよ卒業式の日である。銀時は高杉の部屋の前に立って「明日、卒業式だけど」と中の高杉に一言言った。高杉の部屋は暫く入っていないがきっと極彩色な私物がゴロゴロ転がっているのだと思った。高杉は「ああ、そうだな」と言った。そこで銀時が例の口癖を投げて終わり。

銀時は高杉に少なからず感情を抱いていた。当初親子愛にでもすり替わるだろうと思われたそれはただ膨らんで銀時の腹に溜まるばかりであった。さらには高杉の発達し終えただろう体躯はしかし未だ未発達を思わせるような小柄で、四肢はしなやかだが細かった。人一倍強固だろう理性でもって暴挙を慎み続けた銀時は誰かに誉めて欲しいとさえ思った。しかし銀時は同性愛者である。それ故に「卒業したら犯す」という期限と自分への褒美を設定した。多分高杉は出ていくだろうと思っている。しかし多少でも銀時を好いてさえいてくれれば残る。だが銀時は卑怯だった。自分の元を離れれば高杉は行くあてが無い。一人で暮らすにしたってこの不況、高卒者への風当たりは強かった。結局銀時は見返りを求めている。高杉も薄々感づいてはいた。だが何も言わない。何か言える立場ではなかったし少なからず感謝していたからだ。高杉は我が儘だったが情だけは厚い。

きっと高杉はいなくならないだろうという勝算を手のひらで転がす銀時は翌朝しかし沈うつな面持ちをしていた。高杉はよほど普段と変わらず適当な朝食を済ませ鞄を持たずに登校。卒業式の係になっていない銀時は高杉より後に家を出た。その出る前の孤独な空間がいけなかった。空虚だとか孤独だとかが埃のように隅に蟠っている気がしたのだ。自分が今やろうとしていることは思惑はどうしようもなく大人気なく且つ悪辣であった。高杉は不幸を絵に描いたような存在でしかも自分はさらに高杉を貶めようとしていてつまり銀時は最低だった。だがよくよく考えると銀時はただ高杉を自分の傍に置いておきたいだけなのかもしれない。不確かすぎる二人の繋がりというものを適当に取り繕った恋人という関係で強固なものにしたかった。それがたとえ無理矢理に自分の価値観を押し付けるだけであったとしても。馬鹿げていると自覚はあった。だから銀時は頭を抱えた。ただ「ちくしょう」という苦鳴だけが唇をすり抜ける。

式が終わればたしか卒業生はお別れ会的なものに参加し二次会やらなんやかんやで帰りは遅くなる。対して銀時は五時過ぎには帰宅した。パチンコ屋で遊ぼうとしてやめた。気分ではなかった。一人でマンションに帰れば春なのに冷えた空気が頬を撫でる。こんなに広かったかと思えるほど家は広かった。居間もリビングもキッチンも狭くない。二人で暮らすには狭かった部屋部屋は一人で暮らすに充分過ぎるほど広かった。銀時はそれが無性に腹立たしくて悲しくて切なくて悪いことだと解っていたけれど高杉の使っている部屋の扉を開けてみた。果たしてその部屋はガランとしていて銀時の与えた最低限の家具以外には何もなかった。あると思っていた極彩色の様々はその家具の中にさえ無く銀時はただ、ああ、とだけ思った。結末というものは目に見えている。けれど迎えるまではリアルに思えないものだ。残酷なそれは、夜半を過ぎて漸く銀時の腹に落ちて、かれは渇いた笑いに喉を震わせた。

銀時は見返りというものを求めているという固定観念を持つことで大人気ない恋心から目を逸らそうとしていた。乱暴な言葉でもって遠ざけようとしていたのは恥ずかしい感情を抱く自分で繋ごうとしていたのは高杉だったのに結局は情けなく無様で諦めの悪い自分と向き合う羽目になった。高杉の使っていた部屋は痕跡など無いに等しいのにそのままにしてある。銀時はその部屋に近づこうともせず、卒業式のその日から例えるなら抜け殻のように日々を過ごし、この不思議でしかも滑稽に過ぎる失恋の味を噛み締めていた。寂しさという感情も思い出し、ダイエット失敗してリバウンドするように、余計落ち込む心境でもってヘビースモーカーよろしく吸い殻の山ばかり作ってはコンビニと家を往復。学校は受験の準備で忙しく、春休みなんぞ無かったがやはり上の空な銀時は高杉がいったい何処へ行ったのか今どうしているのか、始業式の日を迎えてようやく疑問に思った。しかしもう気にしてもどうしようもないことだと気付き、考えることをやめた。ただ、脱力。そんな安い表現しか思いつかぬほど銀時は疲れてしまっている。

「ハジメマシテ、隣に越してきた高杉です」

だから高杉と約二週間振りに顔を合わせた時銀時は酷い顔をした。ふざけた高杉の口調を叱れぬほどに脱力し安心し狂喜し怒った。なんでどうして、今更何、とぐだぐだ頭の中に浮かんだ疑問も意見も全て飲み込んでしかし抱き締めるには資格が無く、おかえり、と言うのは違う気がしてならなかった。結局は口を開いては閉じての繰り返しで要領を得ない。高杉は目の前でにやにやと笑っている。

この隣の部屋がさ、丁度あいてて。越してきた。犯されたくねぇから、出たけど、やっぱ行くとこなくてなぁ。このマンション、高いけどバイトで貯金してた金はたいてどうにか借りた。バイトって、ホストなんだけど。気付いてたかよ。高校で下積み終わって今やっとホールに立てるあたり。顔しか取り柄ねぇけど、収入とかそれなり。指名してくれるヤツが少しだけいて、金持ちだからそれでなんとか。なぁ、聞いてんのかホモ野郎。

「女、抱いた?」
「さぁ」
「チェリーじゃねぇよな、お前」
「まぁな」
「でもヴァージン」
「ホモじゃねぇからな」
「なら、いい」

あのさぁ、犯さねぇから戻ってこいよ。ホントは隣の部屋なんて借りてねぇんだろ。だって右隣には香水臭い女と変な男が住んでる。左隣は仕事が出来そうな中年サラリーマンが。実際行くとこないんだろ。見え透いた言い訳とかホント、

「やめろよな」
「悔しいだろ、俺も男なんだから」
「うん、まぁ、おけぇり」
「たでぇま」

高杉はエナメルの大きなバッグを一つ抱えるようにしていた。それが邪魔だったので、銀時は高杉を抱き締めない。けれどもきっと高杉は確信犯だった。


ああもう本当にこれはリアルだ


END






続き物にしようかとも思いましたがどうですか。
ホスト高杉と教師銀時の同居生活。
てか、3Zなら銀八でしたね。今気付いた。
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