マジック/銀神






わたしには魔法が掛かってるの、と神楽は言った。冒頭は内容であって、本当の語尾にはアルがついている。ソファに腰掛けた銀時は気だるげに「どんな魔法」と尋ねた。すると神楽はよろめくようにしてぐらりと銀時の腕の中にすっぽり収まる。熱っぽい視線が、パチリと銀時の目を捉えた。なのに肩幅も身長も何もかも未発達で乳臭くて、つまりは子供だった。温い体温がじわじわと銀時に染み込む。それがくすぐったくて、銀時は身体を揺する。手前の身体に埋もれてしまいそうな小さな生物は必死に自己主張していた。

「子供に見える魔法アル」

本当は、あと五才くらい大人なのに、あと五年しないとその外見にはなれないアル。ねぇ銀ちゃん、だから待ってて、わたしの外見が大人になるまで。

神楽の腕は血管がすけそうに白くて、細い。柔らかで肌理細かい肌が骨や肉を包んでいる。その腕をスラリと伸ばして銀時の首に絡めた。そうして、キスをする。まだ生々しい子供の匂いがした。むっとくるような、そんな幼すぎる体臭。濡れた唇だとか、柔らかさだとか、そんな神楽の身体の一部が、逆に変に思えた。けれど到底、くらくらするような香水が似合うような細い首はもっていなかったし、ハイヒールが似合うようなペディキュアが塗りたくられた爪先も持っていなかった。だから銀時は、神楽が傷付かないように優しく、耳の裏でそっと囁いた。

「その頃には俺も魔法にかかってるさ」

今より五歳年をとって、おじさんになっちまう。お前は真選組のドSあたりと恋をして、俺は一人スナックに通うんだ。チャイナドレスの姉ちゃんに酒、ついでもらって。

「いやアル。銀ちゃん、そんなこと言わないで」

目に涙を溜めて神楽は銀時の肩に顔を埋めるけれど、彼は結局、最後まで彼女を抱き締めなかった。彼は恋するには年を取りすぎていたし、彼女は愛を知るに若すぎた。本当に、どうしようもない大きくて分厚い壁が二人を分断してしまっている。神楽はとても悲しかったので、銀時を抱き締めながらすんすん泣いた。銀時は彼女の幼さを吸い取っては、年寄りのような溜め息を吐く。そのくせ、神楽の背中を撫でてやった。彼はソフトクリームのようにだらしなく甘いのに、目が覚めるほど冷たい。優しくて、だからこそ残酷だった。

神楽の涙が銀時に水たまりをつくる頃には、たった一つの恋が終わろうとしていた。切なさが、蛍光灯の光のように降り注ぐ。彼女は最後に「銀ちゃん、大好き」と言った。銀時は「うん」とだけ返して、神楽の肩をそっと押す。ポトリと、恋が床に転がった。


END





歳の差萌え。


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