寂寥感だとか、きっとそんな綺麗な言葉に出来る感情じゃないんだ。

ただ“自分以外”を手に入れてしまった幼なじみが、オレのいない所で楽しそうに笑っているのが気に食わなかった。

もう自分はいらないんだと思うと、ずっと望んでいた筈のあいつにとっての温かい環境がどうにも許せなかった。

あいつはもう笑えるのだと思うと、悔しいくらい悲しくなった。





「三橋、変わったな」

畠がぼそりと呟く。
その言葉には驚きや意外性が混じっていて叶も激しく同意したが、叶が知る限りそれは変化ではなかった。

「変わったんじゃねぇよ。……戻ったんだ」

小学校の頃はよく笑っていた。
泣いてもいたしビクつきもしたけど、あそこまで卑屈な奴じゃなかった。

人格を潰したのは中学だ。
部活、クラス、学校の教師。全部が三橋を押し潰した。
三橋に悪い点が無かったとは言わない。それでも、虐められる側が悪いとは言えない。

それは肯定になってしまう。
自分の物差しで測った時に異常だと感じた物を完全に否定する事は、悪い事だと思いたい。

「あいつは良く笑ってたよ」
「……そっか」
「うん」

頷きはしたけれど、畠の中に三橋の笑顔の記憶はないのだろう。
当たり前だ。
きっと三橋が一番最初に覚えた事は、相手の感情を逆撫でしないように萎縮する対応だったのだろう。それが卑屈な態度に拍車をかけ周囲をイラつかせたのだろうが、三橋は身を守っただけなのだ。敵、から身を守る術。


しかしそうは言ったものの、叶の中にも笑顔は無かった。
いつから笑わなくなったのか解らない程に、それはあまりに些細で、人を心底気遣う変化だった。

自分が同じクラスでなかった事が今更ながら悔やまれる。

もしかしたら、もし何も変化がなかったのだとしたら、今でも“修ちゃん”と“廉”だったかもしれないのに。



「三橋は笑うよ」

笑えるようになったのはあの今のメンバーと、捕手の役割が大きいのだろう。

自分には出来なかった。

それがどうしようもなく悲しくて、置いて行かれた自分がどうしようもなく哀れだった。


変化があった。
自分には感じ取れない。

それだけの話だった。