「あちぃーなぁ、あっついなぁー、あーダメだー、ほら銀さんはね、主成分がアイスで出来てるからね?めちゃくちゃ氷菓子だからね?メルトって感じ?銀さんメルトしちゃうっていうか?」
「お前の主成分は糖分ではなかったのか」
「女の子の夢ですからね、銀さんは甘くなったり冷たくなったりします」


ソファーにぐったりとのけ反り、暑い暑いと真上を向きながらうちわを動かす姿に夢も何もあったもんではないと思うが。

しかしまぁ長年の呆れやら疲れやらで身に染みてアレさ加減を知っている桂はあえて言葉にせず、ただ黙って目の前の回覧板に視線を落とした。

何曜日に断水がある、どこどこで空き巣があった注意をしましょう、何日は花火大会がある、フラダンスサークル開講しました受講者募集中、エトセトラ

桂は飽きれ半分でこめかみに手をあてた。
この平凡で平穏で平坦な世界のなんて幸せな事。

日々を生活をする者にとっての脅威とは目に見え肌でも感じられる、自身の生活を脅かす物だ。困窮。金銭。不況。

いつ始まるか解らない戦、何処かの知らない誰かがやっているテロ、日本を何処かに連れていこうとする天人。日々を生活する者にとって、怖いものなどありはしない。

目の前には白夜叉と呼ばれた男。
戦に身を投じていた男は、誰に謗られるでもなく自然に無難に、平和に身を窶して安寧を貪る。



桂は問い掛けた。



「なぁ銀時。今のお前に怖い物はあるのか」
「は?怖い物?」
「そうだ」
「銀さんはぁお化けは怖くないですけどぉ、肝試しとかそーいう若者系はちょっと遠慮したいなーみたいなー」
「そんな話ではない」

きっぱりと言い放つと、ヅラはまた意味の解んねぇ事をとぶちぶち言いながら、しかし何かに思い至ったのか、古典的にぽんと手を打った。



「最近の空き巣は怖いと思う」



だってお前ぇ回覧板見たか?スタンガン持ってるんだぜ?おばあちゃんとかめちゃくちゃ危険だよ?

まるでそれが脅威のように語る銀時に、桂は盛大にため息をついた。


なんて恐ろしい事。

この平らな和の国では人々の牙を折るだけでなく、夜叉の息の根すら止めるらしい。









人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -