「…と、」
「と?」
「溶けるかと思った」
いくら怒っても吹雪がヘラヘラしている物だから、怒りに任せて思わず腕を引き寄せてしまったのだが、その肌が真夏だっていうのに雪の固まりのように冷たくて、怒りはあっという間に空の彼方に飛んで行ってしまった。
何に怒っていたかなんて今はどうでもいい。
自分の平熱が吹雪の肌にじわりと移るのが解ったが、その体温変調があまりにも顕著だったので、染岡は掴んだ時と同じ凄い早さで手を離した。
「とけ…?」
吹雪は意味が解らないのか、目を丸くして染岡を見返した。
それも当然だ。染岡自身も自分の行動を理解していない。
「……あ?えー、あー、……お前冷てぇのな」
「う、うん。そうなのかな?自分じゃ良くわからないけど」
「冷てぇよ。夏だっつーのにお前だけ冬みてぇだ」
「低体温なのかなぁ…血圧は低くないんだけど」
ひたひたと、あらわにされた自分の真白な腕を叩きながら吹雪は首を傾げた。
その吹雪の肌の白さは野外でプレイするスポーツ選手の皮膚ではない。
ウェアに隠された部分の方がより白いとは言っても、剥き出しにされた腕も太腿も、染岡にとっては日の光を浴びているのかと疑いたくなるような白さだ。
地が黒く、部活などで更に焼けた自分の肌とは全然違う。
その冷たさ、白さは、まるで。
「――あぁ、そっか」
銀色の髪がふわりと浮かぶのを見て、染岡はその後の身体的には軽い、しかし精神的には物凄く重い衝撃をただ呆然と受けた。
染岡との身長差を背伸びで埋めた吹雪は、伸び上がって近付けた口を離しつつ、ニッコリと微笑んだ。
「――…ぼくが雪みたいだ、って言いたかったんでしょ」
「……なっ!」
「大丈夫だよ。キスしたって何したって、ぼくは溶けないからね」
頬が馬鹿みたいに紅潮しているのが自分でもわかる。
両手で隠しようもない程真っ赤になっているのは明らかで、結局の原因であるはずの吹雪はクスクスと笑うだけだった。
ちくしょう。
雪の固まりはいつのまに妖精に化けたんだ。