兄貴が今あぁなってしまっているのは、あの時オレが話しかけてしまったからだ。
話しかけちゃいけなかった事は解ってる。オレは死んでいて、兄貴は生きていて。
隔たった透明な壁にオレは直に触れたから、オレ達が違う存在になっていた事は解りきっていた。
でも兄貴は、生きちゃあいなかったんだ。
ただ漠然と飯を食って、学校に行って、サッカーをして、人と会話をして、嘘臭く笑って、泣かなくなって、宿題をして、アルバムを見なくなって、部屋に時々篭って、一人にしないでと言って、仕方なく生きて。
見ていられなかった。
オレは見ていられなかったんだ。
「アツヤ」
オレを呼ぶ声はいつだって嬉しげで、いつだって憎らしそうだ。
葛藤は知っている。
もうオレはいらなくて、シロウになりたい事も知っている。
悪かった。
ずっと後悔しているよ。
我慢しきれずに声をかけてしまった事も、兄貴を一人置いていってしまった事も。
でもオレにはそれ以上に後悔している事があるって、兄貴は知らないだろ?
言ってないもんな。知らなくっても仕方ない。
兄貴、オレは生きていたかった。
死にたくなんかなかったんだ。
サッカー、ずっとずっとやっていたかったんだ。
でもそれはもう叶わない願いだから、オレは兄貴に願いを叶えて貰いたい。
なぁ兄貴、いつかオレはいなくなるから、それまでには解ってくれよ。
手を伸ばした時に支えてくれるのはもうオレじゃないからな。