吹雪は口に含んだ指輪を飲み込んだ。

のどに突っ掛かる感覚は勿論あったが、乾いた通路に空気を押し込むように、無理矢理それを嚥下する。

口内から物体が通過する時背中に怖気が走り、胃の底から溢れるような吐き気が込み上げた。反射的に涙が出る。

感覚だけではなく実際胃液が上がったのだろう、一瞬吐き出してしまうかとも思ったが、それでも吹雪はその二つを飲み込んだ。


シンプルなそのフォルムは十数年前の流行りだったのだろうか。

細身のラインに細工の殆どない円。
シルバーに刻まれたラテン語の意味は永遠の愛、一粒付いた各々の誕生石は数年の使用期間の分だけカットに丸みを帯びている気がする。


数年身につけていたであろう結婚指輪は、吹雪にとって確かに両親の象徴だった。




「………おかあさん、と、おとうさん、も」


遺品を飲み込んだ所で胃にずっと残る訳ではない。
いずれ自分も知らない間に下水に流れるだろう。

しかし側に置いておいた、白いマフラーを首に巻きつけながら思う。


大丈夫。
いつだって側に行く準備は万端だ。

きっと、これらを身につけておけば、自分が死んだ時に向こうの世界で家族が自分を見つけてくれるだろう。

これらは、目印なのだ。
自分が未だに家族である為の。




「……ちがう、だってぼくは、ひとりじゃない」



暗闇の中での吹雪の決意は儀式じみていて、窓から入る月明かりだけが濁った吹雪の瞳を外界に現す。

夜の帳が世界の橙色を喰んでいく最中だったが、今日は決して闇の勝つ日ではない。

しかし吹雪の周りは暗鬱な夜を模したかのように、落ち窪んだ月すら消えてしまったかの如く光のない、黒い絵の具のみの世界だった。


「――そうだ、みんなうそつきだ」










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