吹雪と一緒に歩くというのはあまり珍しい事ではなかったが、風丸の記憶の限りでは、こうして二人きりで歩く事は初めてだったように思う。

歩くのは雷門商店街から、中学校までの十数分の道のり。

多少いつもより歩みが遅いのは、自分達の片手にそれなりの重さの袋がぶら下がっている事と、中学校に着くまでに駄賃であるアイスを食べ終えねばならないからだ。


買い物はマネージャーの仕事…と言う訳ではないが、在庫管理をしているのは彼女達であり、無くなった事にいち早く気がつくのも勿論彼女達であった。

食材、医薬品、消耗品。
それらは幅広い物であったが、マネージャー達は有能であり、選手達が一切不便を感じない程に上手くやっていた。

食材などは一括仕入れで馴染みの店が卸してくれるらしく、裏門からダンボール何箱かの食材をカートで運ぶマネージャーの姿を風丸は何度も見た。

しかし残念な事に祝日の今日、偶々なくなってしまったトマトピューレ缶の調達に、彼女たちはほとほと困り果てていた。

缶詰一つで十分重いのに、作る料理の量は二十人前強。その量を作れる缶など、女子の力で運びきれる物ではない。

自転車などで買いに行けば多少は楽かもしれないが、彼女達が行くと他の業務に差支えが出るだろう。

掃除、洗濯、料理、選手の体調管理の為の水分塩分補給、試合のタイムキーパー、スケジュール、記録、その他諸々をマネージャー達はたった三人でこなしているのだ。


そこでいち早く彼女達の困惑した雰囲気を感じ取ったのは、恐らく雷門イレブンの中で一番女性慣れしている吹雪であった。

そしてその性格から吹雪はそれを笑顔で買って出た。
地理に多少の不安があると、偶然傍の水のみ場にいた風丸に同行を頼みつつだったが。



「吹雪のそれは癖なのか?」

風丸が言わんとしているそれとは、吹雪の歩く場所の事だった。

吹雪はいつだって、風丸が気がつくぐらいの確率で道路側に立って歩いている。

半分棒が見え始めたソーダアイスの棒を舐め、吹雪はきょとり、と右側の風丸を見返した。

「それって?」
「道路側を歩いてるだろう」
「あぁ……癖、っていうか、こうすると喜ぶんだよね。女の子達が」

のほほん、と微笑む吹雪は、女の子慣れしている者独特の風格がある気がした。

風丸も陸上部にいた頃から、他のクラスメイトよりかは多少、女子から黄色い歓声を浴びていたと思う。

しかしそれはそれであり、実際その応援してくれている子達との会話なんて「頑張ってください!」「ありがとう」ぐらいで、一緒に歩いた事など一度もない。

この違いはなんだろうな…と考えつつ、風丸は風丸で、右手に持った既に溶けかけのアイスの雫を舐め取った。

「風丸君はないの?」
「……女子と歩いた事がか?」
「違うよ、癖の話」
「癖……うーん、特にはないと思うけどな」
「ふーん、そっか」

吹雪は氷結を噛み砕いて、棒に残っていた全てを齧り取ってしまった。

「やっぱり人から見た方が解りやすいんだね、きっと」
「吹雪は何か気づいたのか?俺の癖」
「うん、一応。きっと風丸君は女の子と歩いても、優しいって言われるよ」

吹雪はにっこり口角を上げて、風丸の右目をしっかりと見つめた。

「気づいてる?僕ね、わざとゆっくり歩いてたんだよ」
「………そうだったのか?」
「うん。風丸君、自然と歩幅合わせてくれるからビックリしちゃった。優しいね」

歩幅を合わせる事ぐらいは当たり前だろうと考えたが、風丸は吹雪がいつも側にいる人間を思い出して、急に得心がいったように頷いた。

染岡も豪炎寺も円堂も土方も、歩幅を合わせるというよりは、一歩前を歩いて吹雪を待っている人種のような気がした。

「手がべたべただね、河川敷の公園に寄って行こうか。手を洗ってゴミを捨てれば、アイスの事もばれないし」
「そうだな。もうちょっとだけ歩くか」


吹雪と風丸は並んで歩く。
いつも通りの会話をしたり、いつも通りではない会話を楽しみながら、二人は歩く。


吹雪はアイスを隠さなければと言ったが、風丸は思った。

このままこの出掛けた事実がアイスのように人に言ってはいけないのは残念な事だ。

皆に怒られても構わないから、彼と二人で歩いた道の夕焼けはこんなにも美しかったのだと、他の人達に自慢したら幸せだろうな、と。









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