※アツヤ生存。
※事故後、遠縁の叔母夫婦を頼って雷門に引っ越してきました。
二人仲良くきゃあきゃあとショーケースを指差す双子を保護者よろしく背後から眺める染岡は、よくもまぁここまで違うもんだ、と腕を組み直した。
「お前らあんま似てねぇよな」
日曜のざわめきを放つ雑踏でも、容貌に秀でた、女の子のように可愛い双子はいい意味で目立つ。
注目を集めやすい容姿である双子はそのような視線に慣れているらしかったが、一緒にいる染岡にはそれを受け入れる経験はなかった。
何あの恐面、と怖がられる事は多々あろうとも、周囲の「あら可愛い子!…でも何、あの後ろの人は?」という犯罪者と疑うような衆人環視の目にいい加減嫌気がさした染岡は、そんな彼らの後ろを歩いていた。
人気ベーカリーの紙袋を銘々抱えて嬉しそうに歩く吹雪兄弟は、そうやって後ろからついて来る染岡の言葉に、兄は眉を下げ、弟は眉を上げた。
「……そんな事初めて言われたよ。ね、アツヤ」
「染岡ぁ、俺と兄貴が似てねぇとか何ほざいてんだよ。バカじゃね?目ぇ見えてんのかよ。つーかついてくんなよ気持ち悪ぃな」
「な…っ!気持ち悪ぃってなぁ、お前らが財布忘れて困ってっから俺が金貸してやったんだろうが!」
「そうだよアツヤ。元々はアツヤが叔母さんから貰ったお金を家に忘れたのが悪いんだからね。染岡君には感謝しなくちゃダメだよ」
「………ちっ」
誰彼構わず噛み付く弟は、温厚な兄にはどうしたって勝てないらしく、文句は目の奥に押し込んだようだった。
ほわほわとした見かけの兄に狂犬のような弟が付き従う理由は解らないが、彼らの力関係は入学当初からこうだった。
穏やかな兄と、激しい弟。
もうここから既に、容姿は別としてそっくりとは言い難いのだが。
「染岡君もごめんね。僕たちにお金貸しちゃったから買い物出来なかったのに、アツヤがこんな事言って…」
「いや…別にそれは構わねぇけど」
アツヤの威嚇するような物言いなんて部活で慣れきっているし、金を返してもらうという名目で吹雪家を訪れるのは素直にチャンスだと思っているから、弟の害虫!と言わんばかりの威嚇はあながち間違っていないのだ。
予約したCDを取りに行く途中、パン屋の前で騒ぐ吹雪兄弟を見た時に、私服すげぇ可愛いと数秒静止してしまうぐらいには自分は害虫であると自覚がある事だし。
「そーいや吹雪は何買ったんだ?」
ほくほくと嬉しそうに紙袋を抱く吹雪を見れば、キョトンと首を傾げた後の笑顔がなんとも眩しかった。
「僕?僕はキャラメルハニーとココアシュガー、あとはホワイトショコラ。あのお店のドーナツ美味しいから、サービスデイだったしいっぱい買っちゃった」
「………スゲー甘そう…でもよかったな。アツヤは?」
「極みのカレーパン。限定20個の商品の残り全部買ってやったぜ!」
「アツヤったら限定品が売り切れるから、ってお金を取りに帰ろうとしなかったんだよ?じゃあ僕が1人で取りに帰るから店で待ってて、って言ったら…」
「あんな女ばっかりの店に1人でいんのもやだし、兄貴を1人で歩かせんのもいやだ!かといって兄貴を店に残すのもいやだ!危ねぇ!」
「………こうだもん。別に道に迷ったりしないのに…」
「あー…」
気のない返事を返してみたが、アツヤの言う危険性が迷子や事故に関する事ではないとは解った。
休日である事だし…駅前のナンパもキャッチもそれなりに多いだろう。そしてそれを華麗に避ける術を吹雪は持たなそうだ。
「やっぱり似てねぇよ、お前ら」
言うとアツヤは「なんだと!?」と噛み付いて、横にいた吹雪は情けなさそうに、今まさに染岡に食ってかかろうとしているアツヤの服の裾を引いている。
外見はそっくりなのに、ここまで性格も味覚も違うとは。
染岡の味覚はアツヤ寄りではあったが、甘党の吹雪がやや面倒臭そうに自分を守ろうとしている姿を見て可愛いと再度認識する事も、同級生に恋心を抱く中学生としては全くもって間違いではないのである。