※性的描写がありますので注意。






脱げよ、と直接的に言われ、吹雪は茫然とした。

自分は南雲家に恩のある身で、だからこそ忠義を尽くし臣下に下りながらも長子、晴矢様付け側使えとして日々お世話させて頂いていた。

年も近いという事だったが、何分住む世界が違い過ぎた。

共通する話題もなく、吹雪には通じた武芸もない。あるのは園芸の才能だけだったのだが、これに晴矢が興味を示す筈もなく、彼らは頻繁に顔を合わせる割には交流が全くと言っていい程なかった。

事務的な質疑をし、事務的な世話をし、事務的な雰囲気を残しつつ去る。
特に気に入られた側使えでもなかった吹雪は、私用で主人と個々の会話をした事もない。

けれど初めて呼び出しをくらい、何か粗相をしたのかと怯えながら襖を開ければ、ただ一言、脱衣を命じられた。

「は、るや様?」

自分の聞き間違いであって欲しいと名を呼べば、南雲は頬杖をついて椅子に座りながら、不機嫌そうに再度同じ台詞を吐いた。

「脱げ」
「な、何故ですか…っ」

いきなり脱げとは横暴にも程がある。
流石の吹雪にも抵抗が生まれたが、それは直ぐに痛みに紛れた。
南雲の細く、しかしこれから節だっていくであろう器用そうな手が吹雪の頬を思い切りひっぱたいた。ぱん、と乾いた音が吹雪の耳に聞こえる。

「口答えすんのかよ。側使え如きがこの俺様にか?」
「晴矢様……」
「脱げって言ってんだよ。剥がれて無理矢理やられる方が趣味なら、俺は別に構わねぇけど」

吹雪はびくりと肩を震わせながら衿を引き寄せた。
脱げ、とはどういう事なのだろう。
裸になり何をするかなど――考えたくもない。

吹雪は帯を解き、前合わせを開こうとして躊躇した。恐る恐る南雲を見ると、先程と同じ格好でこちらを眺め見ている。その目は停止する事を許さず、反抗しよう物なら殴り殺そうとしている、そんな気配すら吹雪には感じられた。

「………っ」

意を決して前をはだけさせ、布としての価値は安っぽい生地を床に落とす。裸に足袋だけとは間抜けな姿だ。

羞恥で顔を真っ赤にしながら早くこの嫌がらせが終わればいいと吹雪は願った。しかし南雲の方にはまだ吹雪を解放する気はないらしい。南雲が自分の足元の畳を指差す。

「座れ」

なんて命令し慣れた言い方だ。
顔を俯けながら裸のまま正座する。するとぐぃ、と周囲に忌子と疎まれる色の薄い人外な毛髪を、南雲は遠慮なく引っ張った。

「舐めろ」

息を飲んだ。
吹雪にだってこういう事の知識がまるでない訳ではない。ここまでくれば、主語を言われずとも解る。いや、理解するしかない。

「ほら、早くしろよ」

急かされ、吹雪はおずおずと和装の裾に手を伸ばした。開き、普段なら決して見る事のない下腹部までを露にする。すると強制的とはいえ赤黒い肉棒を視界に入れてしまい、思考が停止した。自分の物とは全く違う、それは女を知った、男の物だった。

若干硬くなりつつあるが、いまだ力なく垂れる物に手を添えて吹雪は口を寄せた。

自慰には多少の経験があるものの、春買いもした事がない、女の体は知らない吹雪だ。知識のみの実務経験0なのでどうすればいいか解らず、とりあえず陰茎を下から上へと舐め上げる。亀頭と幹の接合部の隙間を舌でちろちろと数度往復し、そそり立ち熱を持ってきたそれを口に銜えた。

努張し始めたそれが吹雪の小さな口に収まる筈もなく、幹も半ばまでの部分で諦め、亀頭を吸った。じゅ、と鳴る。

頭上で喉を鳴らす音が聞こえた。今の所失敗はしていないようだ。必死に舐めながら根元をしごく。

「……お前、本当に、初めてか?」

何を言うのか、やらせておいて。こんな恥辱は初めてだ。
自分はまだ女も知らないのに。

「まぁどっちでもいいけどな」

言って今度はぐぃと頭を引き離され、口淫を止めさせられる。
何?と思う間もなく立ち上がった南雲に胸板を押され、倒れた所を組み敷かれた。したたかに背中を打つ。痛い。

「ひ……っ!」

南雲の舌が吹雪の胸の突起をいじる。数度の往復のみでピンと立った乳首を見て、南雲は何か面白い物でも見つけたように、笑いながら甘噛みをして吸い上げる。

そして南雲の右手は、吹雪の何も知らない無垢な下部に触れる。びくり、と体を縮こませるも南雲には関係ないようだった。

早い。快楽を知らない吹雪のペニスは直ぐに反応し存在を大きくする。
他人に触れられているというのが吹雪の興奮を煽っているのも事実で、吹雪は恥ずかしさで泣きそうになりながら嬌声を飲み込んだ。

そして不意に胸をいじっていた顔が離れ、解放感にゆっくり息を洩らす。
しかしそれは一瞬の余裕、命の隙にしかならず、陰茎を吸われた急激な刺激に吹雪は喉を引きつらせた。

「ひぁっ……!」

指でまさぐられただけで勃起したソレを、南雲は何の躊躇もなく口に含む。尿道の割れ目を前歯で擦られて、背骨に走った電気で声を上げた。

「んぅ…っ」

どうしようもない気持ち良さに両腕の行き場をなくし、手持ち無沙汰に畳のい草の隙間に爪を立てる。快楽の波だ。普段仕えている主人が、前戯だとしても自分に奉仕しているのは、例えようもないくらいに申し訳ない気分になる。

それに他の誰とも比べようはないが、主人は巧い。しゃぶる仕草も探る手も総てが高貴じみて、なおかつ雰囲気を漂わせる。

「ん……は、ぁっ」
「……別に声デカくても大丈夫だぜ。人払いはしてあるからな」
「ち、違っ…!」

吐息が陰部にかかり、喋らないで!とも言えず擽ったさに身を捩る。
声を出さないのは自分自身が聞きたくないからだ。

その声は、お使いの時に横切った華街のお姉様の声に似ている。
あの時は客を取っているのだと理解して足早に路地を去った。
それと同じ声を自分が発しているなんて信じられない。あの理性を失った、人とも思えない、野性の雌犬の声が頭の中でガンガンと響く。

「晴矢さま、…やっ、放してっ…!で、ちゃう…っ」

射精の時は近かった。
主人の口の中に流し込む訳にもいかないので、吹雪は必死に引き離そうとする。

「ん、解ってる」

しかし南雲は吹雪の努張具合でそんな事は百も承知らしく、促されるように扱きを早められる。

高ぶったソレは放出欲を伴うが、吹雪は寸での所で押し留める。主人の口内に注ぎ込む訳にはいかない。
しかし早さを増す手淫に我慢の限界を越え、瓦解する理性の中吹雪はあられもない声を上げながら絶頂を迎えた。

「――ぁあっ!…ひっ、うっ」

びゅくびゅくと先端から残り液を溢しながら、射精の余韻で痙攣を起こす吹雪をじっくりと眺め、口内に溜まった精液を飲み込みながら南雲は満足気に笑った。

「人前でイったのは初めてかよ」
「う、うぅ…」

「随分良かったみてぇだけど、解ってんの?」

両腕で涙を隠そうとしている吹雪の腕を無理矢理剥ぎ取って、水滴の中の赤く滲んだ目を支配欲で見下ろしながら、南雲は吹雪の後肛に人差し指を一本捩込んだ。

「――――っ!!!」
「……俺はまだなんだよ」

たった指一本だとしても、直腸の末端に何の潤滑剤もなく入れられたら気持ち悪さしか起こらない。
当たり前だが排泄を目的とする器官に逆らって侵入してくる物があるのだ。腸の中の痛覚は鈍く、あるのは痛みよりも異物感だったが、吹雪は指一本で終わらない事を知っていた。吐き気がする。

「ぁ…晴矢さま…抜いてぇ…っ、気持ちわる…っ」
「お前だけ楽しんで終わりにするつもりか?んな訳ねーだろ」

ぐにぐにと、今までには絶対に感じなかった感覚が腸壁をなぞる。
指一本が触れられる範囲はたかが知れていたが、南雲はある一点を探していただけなので、第二関節まで入ればそれでいい。
そして探していた物は南雲の予想の範囲内に存在していた。さらりと触れる。

「………っひあ!?」
「――…ここか」

南雲の指先は腸壁の、一部しこった固い部分を念入りに弄った。所謂前立腺という部分だ。

吹雪は触れられて起こる、奇妙な感覚に目を揺らす。浮き立つような幸福感。じわじわと腹の中から溢れ出すのは快感と呼ぶにはまだ弱い、しかし決して嫌ではない感覚。それが吹雪の目に新しい涙を生む。

「やぁ…変、そこ、はっ」
「うるせぇ。気持ち良くなってくっから黙ってろ」

南雲の有無と言わさない言葉。そもそもの話刃向かう事さえ不可能な間柄なのだが、閃光が瞼の裏で瞬く間に吹雪は良く解らなくなっていた。

そして数分弄り倒した後、とんとんとそこを叩きながら南雲は吹雪に問い掛ける。

「ここ、今どんな感じがする?最初と違うか?」
「変に…っ、ざわざわ、し…っ、」
「そりゃ痛ぇ訳ないか。こんだけ勃起してりゃな」

吐精をして萎えた筈なのに、吹雪の物は南雲が丹精にマッサージをしたお陰で再び鎌首を擡げていた。
南雲はそれを確認した後に、先程よりは少し柔らかくなった、しかし吹雪の扇情的な姿を見て確実に興奮している己を後肛に宛う。

「……いれるぞ」
「っあ、」

向かい合った姿で押し進められ、吹雪の体は拒否する事なく南雲を飲み込んでいく。
両膝を抱えられ、吹雪が少しお尻を上げている物だから、自分の明らかな性的興奮が目に入ってしまう。爪弾けば震えそうなそれは南雲の腹を掠めそうな程そそり立っていて、一瞬こちらも触れてくれれば気持ちいいのにと考えて、その快楽に溺れそうな自分に泣きそうになった。

南雲は全て入った事を教えるように下腹部をぐいと押し付け、ねまっこく腰を回す。
痛みか圧迫感か快感か、息が荒くなった吹雪の様子を見ながら完全では抜かずに一度引いて、再度腰を進めた。

「んぅ…っ」
「痛かったら背中に手ぇ回せ。動くぞ」

言われた通り吹雪は南雲にしがみつくように上半身を寄せた。
しかしそれは痛みからではなく、南雲の押す力が強過ぎて、体がずれてしまうからだ。

徐々に早まるピストンに追いやられるのは吹雪だけでなく、むしろ切羽詰まっているのは荒い息を吐く南雲の方だろう。
吹雪の熱い粘膜を貪るように腰で叩く。
女の膣よりも銜える力は強く、逃さないとばかりの圧迫感が、想像していた以上に南雲をのめり込ませた。腰を動かす度に、手淫のような快感が溢れ出る。

互いが互いで扱くように腰を使う。
話しかける事も忘れ、南雲は盛った動物のように吹雪に対して腰を動かし、吹雪も与えられる動きと快感のままはぁはぁと息を漏らす。

絶頂に上り詰める時のあのヒクヒクとした筋肉の痙攣が二人を襲ったのはほぼ同時だった。

「――…っ」
「ひ、あぁっ、……んぅっ」

吹雪の射精は南雲の腹を汚し、南雲はそのまま中に注ぎ込む。
ちかちかと目の前が白くなるような達成感と、異様な体の暑さに南雲は肩で息をし、吹雪は最後に南雲の瞳を見て意識を手放した。



「……我慢の出来ない男だな」

気絶した吹雪から己を抜いた時、襖を開けて入ってきたのは涼野だった。
南雲は眉根を寄せて不快感を露にする。

「お前はマジで趣味悪い奴だな。いや質が悪いのか?いつから見てたんだよ」
「吹雪が可哀相になった辺りからだ。まぁ気にするな。人の情事を見て興奮する趣味はない」

どうとでも取れる台詞に、南雲はこの射精障害が、と脳内で毒づく。
涼野はそんな見えない悪態に気づいているのかいないのか、口をへの字に曲げながら腕を組んだ。

「今までの我慢を無駄にするのか?」
「うるせぇよ。こいつはウチの使用人だぞ。俺がどんな風に扱ったって誰も文句は言わねぇよ」
「……あいつ、は殴りかかるかもな」

挑発するような言い方に、南雲もぴくりと眉をあげる。

「お前に何が解るってんいうんだ」
「何も解らないさ。噂しか聞いてないんだからな」
「じゃあ黙ってろよ。吹雪は俺の物だ、それでいいだろうが。それにこうやって現に吹雪は俺に逆らえねぇし。あいつも手篭めにされた幼馴染なんてどうでもいいだろ」
「どうだかな……」

涼野はまるで呆れたように息を吐いて、南雲を見た。

「……少し経ったら口の堅い女中をこちらに寄越す。それまでにお前は身支度を整えておけ」

踵を返す涼野はぴしゃりと襖を閉め、人を呼びに行ったのだろう。
南雲による人払いの命令はいまだに解除されていないから、恐らく連れて来るのは涼野の人間だ。

頭をかきながら、南雲はぐったりと体を横たえる裸体の吹雪を見た。
白い体のあちらこちらを濡らし、明らかな情事後の疲れを滲ませている。

「………吹雪」

吹雪が南雲家に仕え始めたのが約三年前。
それとほぼ同時に抱いた恋心の末路は、吹雪の体を得たという喜びよりも、強いてしまったという懺悔の方が強かった。










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