※青の祓魔師パロですが、若干管理人設定が混じっています。





「なんか兄貴の呼びかけは気が抜けるんだよなぁ」

屍の黒い体液に塗れた大剣を大仰に一度振り払い、アツヤは目の前に広がる阿鼻叫喚の光景など見慣れた風で、立ち上る異臭には目もくれず、今回班を組んだ実の兄に言葉をかけた。

首を傾げて振り返る兄の向こうでは、別の祓魔師達によって既に現場の清掃作業が始まっている。


今回の任務は人に宿った魍魎の祓いであり、通常であったら吹雪兄弟が揃って任務につくような内容ではない。

しかし彼らが対で任務に投じられたのは、宿ったモノではなく宿られた人間に問題があったからだ。


吹雪兄弟がそれぞれ呼ばれたのだ。憑かれた人間に相応の地位と金があったのだろうが、兄弟にとってそんな事はどうでもいい。
しかしそれ程に、吹雪兄弟の名は世間に知られていた。


祓魔師の中での有名所と言ったら、聖騎士の称号を得ている藤本か、高野の仏門、そして後継の観点から言えば奥村や吹雪兄弟の名が上がるだろう。

アツヤの兄である士郎は、弱冠十四にして祓魔師としての称号、詠唱騎士(アリア)と手騎士(テイマー)の二つを得ている生粋の天才という奴だ。

そもそも十四の年齢から考えれば祓魔塾の訓練生(ペイジ)でもおかしくはなく、むしろそれが一般的ではある。

しかし吹雪兄弟はれっきとした正十字騎士團の一員であり、もちろん実力も歴も折り紙付きだった。


「気が抜けるって言われても……小さい頃からマルちゃんだったし、契約の時にそう呼びかけちゃったから変更はきかないんだよ。そんな事アツヤだって知ってるくせに」

「だから、炎狼王マルコキアスにそんな名前つける神経が解らねーって言ってんだよ」

士郎の右手に撫でられ尾を振る獣の姿は傍目可愛らしくもあるが、事実その尾はうねる大蛇であり、その狼とおぼしき生物の体躯は有に五メートルを越えている。

黒衣の毛皮を持ちグリフォンの翼を羽ばたかせる、地獄の三十の軍団を指揮する侯爵マルコキアスが、士郎が手騎士として初めて召喚契約を交わした悪魔だ。

最初の召喚魔が侯爵の位とは俄には信じ難い話だが、当時七歳だった士郎は正式に書いた魔法円ではなく、紙に書いた略図でマルコキアスを呼び寄せた。


突然現れたマルコキアスに、周囲に控えていた祓魔師達は騒然とし、その召喚を当たり前のように暴走と捉えた。

士郎が称号のない子供であった事もそうだし、略図で侯爵の位を呼ぶなど前代未聞だったからだ。

しかし当人である士郎は恐れる事なくマルコキアスに触れ、マルコキアスも士郎のより側に行きたいのかゆっくりと身を屈め、その大柄な体で傷つけないように頭を擦り寄せたのだから、大人達の驚愕ぶりは計り知れなかったろう。


手騎士に必要なのは天性の才能と言われているが、これはある種特出し過ぎていた。



「“マルちゃんちょっと来てー”ってそんな気の抜けた声で召喚して出てくるのが炎狼王じゃ相手もびびるっつの」

「そう?可愛いあだ名だよねぇ、マルちゃん」

グルル、と喉を鳴らす様は飼い主に傅く名犬のようだ。
サイズが一般で括れないぐらい、桁外れに大きい事を除けばだが。

「っつーか魍魎ごときにマルコキアスなんか呼びやがって…詠唱で充分だろうが。魍魎系だったら致死節だって短いだろ」

「マルちゃんが一番呼び出しても疲れないんだよ。それに咆哮一つで全部祓えるし、詠唱するより楽なんだもん」

ね?とアツヤにではなくマルコキアスに微笑みかける。
嬉しそうに鳴くマルコキアスの後ろで、アツヤは盛大に髪をかいた。



「そういえばアツヤは今度の称号試験どうするの?騎士(ナイト)として大分慣れたみたいだけど、竜騎士(ドラグーン)の称号でも目指す?」

「オレは剣だけでいーよ。銃火器ってのは性に合わねーし。手入れが剣より細かい作業で面倒だから、オレには向かないって鬼道が言ってたしな」

「そっか。僕はそろそろ医工騎士(ドクター)の称号でも頑張ろうかなー」

「は!?まだ取んのかよ!」

「んー……出来る内はね」

天性が必要な手騎士は祓魔師の中でも圧倒的に数が少なく、その中でも実力者の上位に入る士郎は色々な仕事のパートナーとして呼ばれている。

そもそも一つの称号を得るだけでも大変なのだ。
なのにこう、悉く取得されるのも周囲の反感を買いやすい。そこの所を士郎は解っているのかいないのか、アツヤには面倒の種である。

「……騎士を極めるか、竜騎士も取るか、って話だな」

「何?取る気ないって言ったばかりなのに」

「兄貴ばっか目立たせる訳にはいかねぇんだよ」

「アツヤだって十分目立ってると思うけどな…強いし…」

「それでも兄貴の影はつまんねぇの」

難しいね、と息を吐く士郎の横で、アツヤは何が難しい事だと眉根を寄せる。


「兄貴が後衛の称号を取るなら、オレは前衛の要になってやる。兄貴を守るのはオレなんだからな」


怒っているような口調で宣言するアツヤに、士郎は一度目を丸くしてから、嬉しそうに表情を綻ばせた。



「じゃあ守って貰おうかな。よろしくね、僕の騎士さん」










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