※双子がナチュラルに女子
※独白です






えぇ、わたくしは醫院開業当時から先代様の元で女中を致しておりましたので、お子様達の事は良く存じております。

先代様…いえ名誉院長とお呼び致しましょうか。

名誉院長にはお嬢様が二人いらっしゃいました。
でもご子息はお生まれにならなかったので、ご親族の方々から後継について煩く言われた事も数度の事ではなかったでしょう。

時代が時代です。助産婦ならまだしも女が医師として医療に携わるのは憚られたもの。
初めから醫院の後継ぎはお嬢様の婿、そしてお子へというお考えのようでした。


名誉院長はまず、妹のアツヤお嬢様に見合い話をお持ちになりました。

通例でしたら姉であるシロウお嬢様の婿が跡取りであり、結婚も先にせねばならぬ筈でしたが、シロウお嬢様は体に不自由な部分がありましたから、妹婿を跡取りにと思われたのでしょう。

この時の名誉院長のお考えは、シロウお嬢様の不自由な部分もあちら様に快く受けて頂く為に支度金を多めに持たせ、医師会の誰かの嫁に出そうというものでした。


アツヤお嬢様の見合い相手に選ばれたのは、同じ区内で内科を開業している先生の次男坊でした。

何かいつも怒っていらしているような風貌で、見合い写真を見たお嬢様達が「この顔なら内科ではなくて外科医よね」とおっしゃられていたのを覚えております。


お見合いは吹雪家の本宅で行われました。

いえ、この段階ではお見合いではなくただの顔見せだと思いましたけれど、両家ともこの縁談に関しては真剣でしたので、張り詰めたような空気が家人にあったのも確かです。


明治より続く産科医として、吹雪家の近隣の住民からの信頼は絶大なものでした。
選挙に立候補して容易に勝てるぐらいといえばその権力を伺い知る事ができるでしょう。

名誉院長はこの頃から産科だけでなく、内科や外科、整形や泌尿器、とにかく地域医療の中心を担う総合病院の開業を目指しておりました。

そのために必要な濃密なコネクションを、お嬢様達の婿取りや嫁に出す事で得ようとしていたのです。

お相手の方も、吹雪家と結ばれる事で生まれる利点は良い事ばかりのようでした。


しかしここである問題が起きました。

お相手の方……勿論現在の理事長でございますが、理事長はお見合いとして顔を見せ合われたアツヤお嬢様ではなく、そのお見合いの席でお茶をお出しになったシロウお嬢様を妻に、とおっしゃったのです。

一目惚れという事で、是非にと請われたようでした。


これで恥をかかされたのはアツヤお嬢様です。

シロウお嬢様の方も、アツヤお嬢様が結婚なさった後に、と内々に進められていた縁談がありましたから、容易には承諾出来ないお話でした。

しかし相手の方も、内科医として力を持っているお家柄です。

名誉院長としてはどうしても欲しい繋がりでありましたから、名誉院長は悩みながらも、その方をシロウお嬢様の婿として迎える事をお決めになりました。


そしてシロウお嬢様の結婚相手としてお話を進めていた方を、そのままアツヤお嬢様の結婚相手としたのです。



シロウお嬢様は男腹であったのか、結婚した後直ぐに身篭り、生涯で男ばかり四人を出産なさいました。

そしてその兄弟全員を医者に育てあげ、当院の産科、整形外科、歯科、外科に配属し現在の総合病院の基礎を作り上げたのです。


アツヤお嬢様も嫁ぎ先で一男一女をもうけ、男児は医者に、女児は医者の家系に嫁がせました。


こうして広がる医者の血脈で、名誉院長は地域で知らない者はいない、吹雪という名の地位を築き上げたのです。

名誉院長の名前や理事長の名前を、現在四十歳以上である産婦人科医の方々は学会で、それ以下の年齢の方は教科書で見ているでしょう。



婚姻で繋がりを作るのは昭和までのやり方でしょうが、名誉院長の経営手腕は確かに優れておりました。


シロウお嬢様もアツヤお嬢様も翻弄された人々の中の一人ではありましょうが、以前お会いした時の幸せそうな笑顔が、わたくしにとってもめでたき事に違いありませんでした。










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