流れ星が落ちる頃には願いを忘れていた。
シャラシャラと鳴る星の尻尾を見つめながら、あぁ僕はどう歩いてきたのだろうと振り返っても、そこに道はなかった。
延々と続く草の視界。
僕が歩いてきたのだから道がない訳がなかったが、僕の背を追っていた筈の線は確かに存在せず、背後に広がるのは未踏の青々しい草だけだった。
僕は戻るに戻れず、渋々ながらも先に進んだ。そうするしかなかったからだ。
しかしそこで僕は恐ろしい事に気が付く。
あれ、僕は何を標にこの腐った足を動かしてきたのだろうかと。
脳味噌の中にも掌の中にも行き先がなかった。古ぼけた標も真新しい標も、何もなかった。
僕はただ身一つで世界の真ん中に立っていた。
あぁどうしようかと涙が零れそうになり首を垂れる。
僕には標すらなかった。お前は歩く価値すらないと言われてしまったように思えた。
標をなくし道をなくし、僕は途方に暮れて道のない世界に座り込んだ。
静寂で、僕の生きる音しか聞こえない世界。
僕は一体どうしたのだろうと不安がっていると、僕と同じ顔をした奴が突然現れて言った。
『総てをなくしたのは自分だろう。見てみろ、それはなんだ』
僕は右手に破壊の道具を持っていた。
僕は自分自身、何を破壊したのか全然覚えていなかった。でも手の中の重みには愛しさすらあったし、大切な何かが有った、それだけを強烈に覚えていた。
では僕は、大切な何かを壊してしまったのだろう。
だから僕は前にも後ろにも行けず、自分で破壊してしまったくせにその大切なものから離れられずにいるのだ。
何を破壊したんだったか。
ちらちら目の前を掠るのは、数滴の脆い涙だけだった。
涙の散る視界は途端に華奢で、伺いしれる底の浅い物になった。
大切なもののない人生なんて結局はそんな話なのだろう。
僕がただほとばしる涙をそのままに泣き続けていると、神様が流石に憐れに思ったのか、それとも泣いた顔が鬱陶しくなったのか、悲観の最後の一粒を落とした時にある希望をくれた。
神様だなんて胡散臭い存在の言葉を鵜呑みにするとは、なんて純真な事。
今考えるとそれは希望などではない。淀んで湿った悲喜ばかりを体言した言葉だったが、その頃の僕は、それがたった一つ、なくしたものを手の中に戻す手段だと信じていた。
「…お前は、誰なんだよ」
円堂の言葉に吹雪はにぃいと笑う。
見慣れない、歪んだえくぼの位置が円堂の怖気を倍増させた。
誰だ、こいつは
北海道からずっと一緒に旅をして来た仲間。氷雪を纏うストライカー。
――今まで俺達が アツヤ と呼んでいた人物は、一体、誰だったんだ
「キャプテン、瞳子監督達に何言われたか知んねぇけど、俺が吹雪アツヤ以外の何だって言うんだよ」
瞳の中に一切の風景を入れず、病院のベッドの上の吹雪は言う。
笑っていない。感情が微動もしない。血の気のない唇がとつとつと動いた。
「なぁ、俺が実は死んだ筈のシロウで、あの事故の時からアツヤに成り済ましてるなんて、そんなの馬鹿げた話だろ?キャプテン」
押し黙る程に濃密になる雰囲気。
言葉を失い、そしてひたすらに正しい物を探す円堂の前で、吹雪は再度口角を上げた。
ねぇ
初めて会った君達に
僕が僕である証明なんて出来やしないでしょう?
神様が言いました。
貴方は亡くした者にそっくりではないですか
そんなに死ぬ程悲しいのならば、貴方が代わりになれば良いのではないでしょうか