吹雪は時の経過を待っていた。

合皮のソファで足を組みながら、壁にかけられた丸時計の刻むテンポをまるでオーケストラの奏でる多重音のように、恭しく聞いている。

もう何分が経っただろうか。
右手にある携帯は未だに光らない。

冬の寒さは夜を穿ち、日の暮れの早まった逢魔が時はすでに夜だ。

秒針が貪欲に昼間を喰らう。
明るい太陽を臓腑に溜めて、せせこましい胃から辛うじて吐き出すのは人間の領土を示す光。

卑しい誇示だなぁ。吹雪は唸る。
多数派が言う所の夜景の美しさなど、煩悩に彩られ過ぎて理解出来ない。


開放された窓から入る、息を白くさせる冬独特の香りは冷たさの証だろう。
温度が肌に食いつき、水分と体温を奪って血管が収縮する。ずきずきと、手先と靴の中だけが寒い。


夜闇の中から、こちらに近づく消防車の音が聞こえた。


吹雪は待つ。
もう少し、もう少し。

逸る気持ちを抑えるのにこんなにも苦労を伴うとはと、その特異な高揚感を吹雪は今日初めて知った。


右手の携帯は光らない。
左手ではヘビースモーカーな自分への彼からのプレゼントを弄る。
開けて、閉め。開けて、閉め。カチンと硬質な音がした。



「早く………」



早く。
そう、何よりも早く。
闇が昼を食すより、サイレンが近づくよりも早く。





吹雪は携帯が鳴るのを待ちながら、カチン、カチンとライターを左の親指一つで開閉する。鉄製のフォルムは冷たい。しかし吹雪の心は急いていた。体の中心だけが暑い。それは心だろうか。小さな胸が歓喜に震える。




消防車の音が激しく鳴る。
音の大きさは固定された。
彼の家の近くだ。
吹雪は知っていた。



闇の臓腑を喰らう炎蛇が、赤い車の歓喜の歌に合わせるように世界が纏った黒の上で踊る。

綺麗だな。吹雪はとろけるように微笑む。



さて、彼の家はどれほど燃えているのだろうか。

そして彼はいつこの自分の携帯の画面を輝かせ、必死の助けを求めてくるのだろうか。



カチン、パチ、カチン、パチ。

灯油をまいた腕がそらぞらしく暑く、それ以上に彼からの電話が待ち遠しい。




さて、彼は誰に、助けを求めるのだろうか。

彼は誰に、深層下で愛を寄せているのだろうか。










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