最近、赤い頭がいつも僕の後ろをついてくるようになった。 「おはようフレイキー!」 「あ、お、おはよう、ランピー・・・。」 HOLD ME TIGHT ! ここのところ、僕が街に出かけたり、仕事で郵便物を配ったりしていると、よくフレイキーに出くわす。僕は出かけざま、町の誰かに出くわした時にはいつだって機嫌よくハローと片手を軽く上げて挨拶をして、もちろん状況によってはおしゃべりをしたりだとか、演奏をしていればコインを帽子に投げ込んでみたりだとか、暇ならそのまま一緒に遊んだりだとかして、場合によってはその時に殺しちゃったり僕が死んじゃったり、うんまぁ、そんなのはいつものことなんだけれど。 だけど、最近、そんないつもの日常に少しだけ変化がある。 フレイキーが、僕の後をチョコチョコついてくるようになったこと。 最初は、行く道筋が一緒なのかなあとか、暇つぶしなのかなとか、特に気にしていなかったし、僕も仕事中なら気分転換みたいな感じで少し話したりするのも悪い気はしていなかった。だけど、フレイキーは最近、本当に連日のように僕の後ろをついて歩く。 さすがに不思議に思って、どうしてなのかその理由を、今もまさに僕の後ろをちょこちょことついてきているフレイキーに聞いてみることにしたんだ。 「ねぇ、君はどうして僕の後ろを歩くの?」 「ふえっ」 僕は歩みをストップさせてぐるりと振り返りフレイキーを見た。 最近はあまりにもいつもうしろをついて来るので、あんまりしゃべりかけもせずに後ろを歩かせるままにしていたので、久しぶりに、それもあまりにも唐突に振り返って話しかけてきた僕に、フレイキーはものすごくびっくりしたんだろう。 小さく悲鳴をあげて尻もちをつき、目を白黒させて僕を見た。 「あ、あの、あのぼく・・・」 「どうして?あ、もしかして、何か相談したい悩みでもあるの?」 僕は尻もちをついたままのフレイキーに、しゃがんで詰め寄って聞いてみた。 まがりなりにも僕はこの町の精神科医だから、たまにはそういう事があったって不思議じゃない。フリッピーだって僕にかかっている患者さんだしね。 フレイキーはなんだか少し青ざめていて、どこか怪我でもしてしまったのかと不安になった。精神科じゃなくて、外科が必要かもしれないな。そんなことを考えながらフレイキーの答えを待つと、彼(彼女かもしれない)はこう答えた。 「あの、ラ、ランピーはぼくに興味ないのかなと思って・・・」 ・・・??? と、僕の頭はハテナでいっぱいになった。興味がない? フレイキーの言っているその意味がイマイチ分からなくて、おうむ返しに聞いてみる。 「僕が?興味ない?フレイキーにってこと?」 「え、えっと、なんていうか、悪い意味じゃないんだけど、ええっと」 「んー?」 「ら、ランピーが、嫌じゃないなら、それで、でも、ぼくがこうしてても何も言わなかったから、ぼくに興味ないのかな、って、あの、」 「んんー?」 フレイキーの言ってることは僕にはちんぷんかんぷんで、ひたすら首をかしげるしかない。そんな僕に、フレイキーは気まずそうに下を向いたり、僕の方を見たりしている。そしてそのたびに髪の毛から少しフケをぱらぱらと落としている。 言ってることはよくわからないけれど、そうして困っている様子を見ていると、なんだかこっちが申し訳なくなってきた。僕は、フレイキーの前にしゃがんだまま、こめかみのあたりに左手の人差し指をすこし当てて、あんまり動かすのが得意じゃない脳みそをくるくると回してフレイキーの言いたいことがなんなのか、ちょっぴり考えてみる。 「うーんと、じゃあつまり、フレイキーは、僕に興味を持ってほしかったってこと?」 「えっ・・・・!!」 唐突にフレイキーは顔を真っ赤に染めた。 僕は何か変なこと言っただろうか。 「違った?」 「あ、あの・・・ち、違わないんだけど」 あぁ、よかった。間違ってなかったみたい。だけどどうして僕なんかに興味を持ってほしいのだろう。嫌われてるって程じゃあないけれど、みんな僕といるとすぐに死んでしまうから、もっとランピーはちゃんと周りに気を付けていなきゃダメ、なんてカドルスやギグルスにしょっちゅう言われているのに。 フレイキーは死にたいのかな? だとしたらやっぱり、名前の通り、この子って変わり者なのかもしれない。 「え、えっと・・・」 緊張すると少し吃音が入るらしいフレイキーが口をパクパクさせながら懸命に何か言おうとしているのが伝わる。僕はだまってフレイキーの言葉を待つ。 でも、そんな彼(彼女?)を見ていて僕はなんとなくいい気分になった。なんでだろう。だけど、なぜだかこれから何か、いいことが起こりそう。 そう思った僕はどうやら無意識に笑っていたみたいで、フレイキーがそんな笑っている僕を見て、意を決したように金魚みたいにパクパクさせてた口から、やっと言葉を紡ぎだす。 「あのっ!僕、ランピーのそばに居たいって・・・最近思って、その、もしよかったら、たまにで、いいから、一緒に過ごしてくれたらなぁって、思って・・・!」 フレイキーはそう言うと、オドオドしながらも口元を歪めて、いつものひきつったアハハという愛想笑いをして、それからまたうつむいてしまった。 僕は目を見開いた。それを聞いて、なんだかとっても嬉しくなってしまって、僕の、よく気を付けていないと焦点が外れてしまう目の瞳孔まで、すこしだけ開いたような気がした。 「あの・・・・」 返事を返さない僕に不安を感じたのか、フレイキーがまた口を開く。僕はさっきの言葉を聞いて、すこし呆然としていたから、その声にハッとして、まだ座り込んだままでいるフレイキーの腕をつかんでぐいと引き寄せて、お得意の馬鹿力でほとんど放り投げるみたいに立ち上がらせた。 その時僕も一緒に立ち上がって、僕はフレイキーに顔を近づけてこう言った。 「ねぇ、それって、本当?」 フレイキーは顔が真っ赤だ。赤くなったり青くなったり、忙しい子だなあ。 僕は、黙ったまま何度も頷いたフレイキーに笑いかけた。 「僕と一緒に居たいの?」 「あ、の・・・えっと・・・・そう、なんだけ、ど・・・」 しどろもどろとして、僕から目線を外したフレイキー。 なんだ、僕のこと、好きなの?だからそんなに、真っ赤になってるの? 僕はにっこり笑ってお礼を言った。 「フレイキー、嬉しいよ。ありがとう。」 そして、そう言った次の瞬間、僕はフレイキーのその細い首を両手で掴んで、ぎりぎりと締め付けてあげた。 どうしてって、すごく興奮したから。 ハグとか、キスとかあったのかもしれないけど、だけど僕はその時なんだかとっても、そうしたくなった。フレイキーのこと、殺してしまいたくなったんだ。 僕の手に、フレイキーのちくちくの髪の毛が手に刺さって血が出たみたいだったけど、僕は気にせずに・・・そのままぎゅうっと首を絞め続けた。 フレイキーは、ぱくぱくと口をゆっくり開けたり閉めたりして、何か言いたげにしている。「なんで?」かもしれないし、「どうして?」かもしれない。 フレイキーの顔は真っ青で、口の端にはすこしだけ泡がついてる。 だけど僕は力を弱めず、その姿をじっと観察していた。そしてついに、僕の掌の中のフレイキーの細い首の骨が、ぐきりと折れる音がした。フレイキーはキッと最後に小さく高い声をあげて、白目をむいて全身の力をなくしてしまった。 だらりと上向けに垂れ下がった赤い頭が、僕を冷静にさせる。あぁ、意図的に誰かを殺してしまうなんて、いつぶりだろう。嬉しすぎて、なんだか乱暴なことをしちゃったよ。 だけど、まぁいっか。明日には生き返るんだしね。 「あっでも、じゃあ、今日は僕たちが恋人になった記念日ってことになるから、僕がフレイキーをお墓に埋めてあげるよ。」 死んでしまったフレイキーにそう話しかけながら、まだ暖かいそのからだを抱きしめて、僕はにっこりした。 そっかぁ。僕と一緒に過ごしたいだなんて、嬉しいなぁ。 明日、君に会うのが楽しみだよ、フレイキー。 END. 色んなねじがスッポーーーンと取れまくっているランピー。 明日からはラブラブですごせるといいね! ,back |