※覚醒職「ナイト」と「ハンター」の話をするジョニーとゼル。




空を飛ぶなら




「まさか、空を飛べる様になるとは思わなかったよ。」


俺、ずっと鳥に憧れてたんだ、とゼルが言った。


「君は鳥なんか食料としか思っていないのかと思ったよ」
と俺が笑うと、ゼルははぁー?と顔をしかめた。


「本当だよ。なりたかった。俺は鳥を仕留める野蛮な狩人でしかなかったけどさ、だし、今もハンターなんて、それこそ狩人だけど。」


空を飛びたかった。地を這う自分が、空を自由に飛べたら、鳥なんか狩らなくても、矢なんか放たなくても、生きていけるんじゃないかって。

そう言われて、俺はつい先日彼に教えてもらった渡り鳥のことを思い出した。
寒くなり、餌がなくなると、彼らは次の暖かい場所へと、遠く広い海を渡り、飛び立つ。

俺はゼルの、緑のベレー帽に包まれた形のいい後ろあたまを見ながら、彼が鳥になればどんなにか美しいだろう、と思った。


「でも、なんかさー、覚醒とか言ってめっちゃすごいけど、空飛べるけど、なんか、変わらねーわ。」


そう言って笑って彼は俺を見た。


「ジョニーはどう?」と緑の眼が、俺に聞く。
俺は、分からなかった。

だけど、姑息な俺は彼に同調するように「俺も変わらないと思う。」と微笑む。
自分が変わったかなんて分からないけど、変わらないで居たかった。
彼が変わらないと言うのなら、俺も、それと同じように、変わらないままでありたかった。

そんな俺の心を知ってか知らずかは分からないけれど、「そっか」とゼルが少し笑って言った。


「でも、飛べる様になったのはめっちゃ楽しいなー。エースとかが、空最高!!って言ってんの、本当それだわ。」

「いいね。」

「ジョニーも飛べるようになればよかったなー。でも、あんだけの飛距離でジャンプできたら、同じかな?」

「まあ、それ以前に空を飛ぶレベルで蹴飛ばされてるし。」

「たしかに!」


そう言って笑い合う。だけど俺は飛びたくなんかない、と心の底で思う。
君が鳥になるなら俺は地を這う虫でいい。君がどこかに飛んで行くというなら、俺は君を繋ぎ止める鎖になる。

彼の幸せを願いながら、彼の自由さに焦がれながら、俺は彼が、いつか本当にどこかに行ってしまうのではないかと、いつもそれを恐れている。


「…でも、本当に君が鳥になったら、俺はミミズにでもなるから、そしたら、俺のこと食べてしまって、君の好きなところへ連れて行って。」


そう言うとゼルはまた、はぁ?というような顔をした。俺はこの顔がとても好きなのかもしれない。


「お前って相変わらずわけわかんねー。」


そう言って両手をひらひらさせたゼルに、俺は小さくごめんと言った。




END.


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