※ケリ姫スイーツ
メカニックマッドとエスパー41号の出会い。41号はマッドによって作られたサイボーグではないか?という妄想からできた文章です。




episode:zero



私が彼を見つけたのは、汚れた町の片隅だった。

どうやら車に跳ね飛ばされたらしい。まだ少年と言ってもよさそうな体つきの若い男が、荒れ果てた道の端に倒れていた。グチャグチャの顔をしていたがまだ息があるようで、血まみれの手が痙攣を起こしていた。

私は彼が死なないよう最小限の処置をし、こっそりとラボまで持ち帰った。

手術台に載せ、麻酔薬を打ち仮死状態にさせて彼の全身をくまなく調べた。身分証明書はない。血を採血する。どうやら麻薬常用者だったようだ。きっと家族もいないだろう。私はほほ笑んだ。

さあ、新しい研究材料が手に入ったぞ。

私はかねてから超能力の研究をしていた。
科学者の私がそのような非現実的な事を夢見るなどと、人は嗤うだろう。だが私は、超能力とは科学的根拠を伴い発動するものだと考えていた。人間の脳にはまだ未知なる力が多く残されている。私はその未知なる力に期待をしていた。

私は研究材料となった彼の脳をいじり、身体へと流れる電気信号の一部を改ざんした。これで超能力が発動するかどうかはわからない。

だが、40回試したうち、この電気信号を試したものにはわずかだが、通常の人間とは違う働きが起こることが分かった。もちろん、必ず成功するとは限らない。
今回もまた大した成果も得られず、彼も少ししか生きれないかもしれないが、それでも仕方ないだろう。何度だって試そう。

貴重な材料だが、私の夢には必要な犠牲である。

脳の手術が終わった。せっかくなのでグチャグチャの顔も治してやろうと思った。
今日は汚いものばかり見てしまったので、せめて美しい顔の造形にしたい。流行りの美男子にしよう。そして私の好きな猫のような顔がいい。

私は鼻歌を歌いながら彼をいじった。よく見ると彼は手足もところどころ損傷していた。内臓も破損しているかもしれない。

どうしてだか、今日は体力がある。そのほかもきちんと見ておこうと思った。

脳波を調整するコードを彼の頭につなげ、顔の手術も終わらせ、肉体の損傷をよく調べようとした時に、停電が起こった。

「なんだ、こんな時に」

私はイラついた。
一瞬で復旧するだろうが、一瞬であってももしかすると彼は命を落とすかもしれない。その程度の状況の人間を今扱っているのだ。大切な研究資源を無駄にはできない。身分もなく、戸籍もなく、家族もない、そんな条件が揃った・・・それも若くて新鮮な人間など、なかなか手に入らないのだ。私はあわてて非常電力のスイッチを押そうとした。

その瞬間である。けたたましい音とともに非常電力供給器がショートした。
私は目を丸くした。どうして。

見れば、なんと雨漏りだ。外ではしとどに雨が降り注いでいる。
こんな汚い町の片隅の空き家を借りて即席でラボを作ったのがいけなかった。

私は悪態をついて彼の傍を離れ、供給器の具合を見ようと身を乗り出した。
すると今度は、脳波調整の機械までが妙な音を出し始めた。

私はいよいよ大事な研究材料が無駄になってしまうと頭にきて、脳波調整機をたたいた。調整機はバチバチ音を立ててでたらめな数値をたたき出した。

数値が脳に伝わってしまったのだろう。
先ほどせっかく私が美男子に仕上げた彼は、意識もないのに身体をのたうちまわらせた。

ああ、これはもう駄目だ、失敗だ。また各地のスラム街をうろつき回り、手ごろな材料となる人間を手に入れるために、さんざん歩かねばならない・・・・。

そう思った矢先だった。
彼の口からはうめき声が上がり、同時に周囲の手術道具が一瞬、浮き上がったのである。

私はハッとして脳波調整期の数値を見た。

3489.765。

これか。この数値か。

私は慌ててその数値を保った。幸いなことにその瞬間に停電も終わり、不安定ながらも電力の供給が戻った。安定すると、彼のうめき声も止まり、浮き上がっていた周囲のものもスゥと下に降りた。

私は笑った。
今回は、もしかすると、もしかするかもしれないぞ。

私は急いで彼の肉体の処置をし、生命維持を行った。大事な研究材料を、ゴミにせずによさそうだ。しかし、今日できるのはここまでだ。

損傷している骨や内臓はまたどうにかできるだろう。幸いこの男は私と血液型が同じだった。私の血肉から量産したものを使えばいい。しかし、見たか、さっきの動きを。私は成功したかもしれない。私は、新しい人類を生み出したかもしれない。

「フフ。」

私は何とも楽しい気持ちになった。自然と笑いがこぼれる。

「ハハハ。フフ、フハハハ、ハハハハハハハハ」

そうだ、彼には暫定的に【41号】と名前を付けよう。

単なる研究番号だが、まあいいだろう。きっとそのうち目を覚ます。
ああ、幸せだ。きっと成功する。成功するぞ。

私はそう思って胸を躍らせたのであった。


end.


2015.06.23:少し文をいじりました。


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