*注意*
ジュリアンが何らかの理由で、脳死状態というか、眠ったままの状態になってしまったという設定です。
少し病んできたモーリスのお話。






貴方の目が何も映さなくなって、幾日が立つのでしょう。



世界が終わる夜に





「キング、今日もお天気がいいですよ。」

私は今日も、朝が来ても眠ったままでいるキング・ジュリアンに話しかけます。
彼の手入れ中邪魔にならないよう、モートを外へ遊びに行かせて、彼の体を清めることから私の一日が始まります。

どうして彼がこうなってしまったのか、私にはわかりません。
でも、きっと彼は、空の神様に愛され過ぎてしまったのだろうと思うことにしています。

眠ったままのキングはもう本当に大人しくなって、あんなにも大好きだったダンスをすることもなくなり、モートが足にまとわりついても蹴っ飛ばすこともしません。私を振り回して好き勝手にわがままな行いをすることも、もうありません。

私も初めのうちはキングが抜け殻のようになってしまった事実を信じられず、ずいぶんといろいろな手を尽くしました。

まじない医者に祈ってもらったり、ヒヒたちの不思議な力に頼ってみたりもしました。
ペンギンたちに申し付けて妙な発明器や怪しげな薬を処方してみたりもしました。
しかし、それでもキングは、帰ってはきませんでした。

仕方がないので私は、誰もがそうなった人の為にやるように、毎日のように彼に話しかけ、
手を握り、体をさすり、口づけて、愛していると呟きました。

今日は何があったか、空の様子はどうか、貴方の顔色が今日はいいとか、すぐれないだとか。

そういったことを、毎日毎日、彼にしゃべりかけるようになりました。
彼が戻ってきてくれるように。私たちの呼びかけに、また笑って答えてくれるようになるように。それだけを期待して、私は毎日、今日の話も、昔の話も、しゃべりました。
私とケンカしたときの話も、ペンギンたちと無茶してけがをした話も、ずっと前にマダガスカルにいたときの話も、初めてライオンたちに会った時の話も、沢山しました。

しかし、それでもキングは反応を示してくれません。
そうなると、やはりどうしても、悲しくなってしまう日がたまにありました。
そういう日には、私に同調するようにモートも一日おとなしく、私のそばにいてくれました。

モートは塞ぎこむようにキングを見つめる私を元気づけるように、おどけて彼の足にしがみついたりして、私の方をみて笑ってくれたりしました。

「モート、動かなくなっても、キングの足好き。」
「はは、そうだな。」

キングは、もう彼の足にしがみつくモートのことを怒りません。ただじっと、眠っているだけです。それでも私は、キングが怒るからと、モートをそっと彼の足から離して、抱き上げました。

「モーリス、泣かないで」

「・・・」

「モートも、悲しい・・・」

「そうだな」

大丈夫。
私にはお前も、キングもここにいるから。


そういう風に日が暮れていく日もありました。

キングの身体を拭き終わると、背中や腕を拭くために起こしていた体をそっと横たえ、今度は王冠をきれいにします。毎日手入れをしているおかげでそれは彼が元気な時よりもぴかぴかと輝いています。

何故。と。私は日々、彼の体を清めながら考えます。
どうして空の神様は彼を連れて行ってしまったのでしょうか。
こんな残酷に、彼の暖かい身体だけ残して。

どうせなら、全部連れて行ってくださればよかったのだと、神を呪う。
呪いながらも、私はやはり毎夜、キングを抱きしめ、この体だけでも手放せないと思う。

もう、私も大分、壊れてきてしまったのだと思います。

キングの心がなくなってしまったことに耐え切れず壊れ始めた私の心には、世界を締め出してしまうための、分厚いカーテンがかかってきています。

私はもう、キング・ジュリアンのこの体と、モートさえそばにいれば、特に何も必要がないじゃないか、そう思い始めていました。キングがこの先、一生意識を取り戻さなくとも、それでもいいじゃないかと、思い始めていました。

「このままのほうが、気が楽だろうな。」

動かないキングを、偶像として崇拝するんだ。
神のもとへ行ってしまったあなたを神としてあがめる私は滑稽でしょうか。
少しでも反応をしてほしいと、あなたに口づけ話しかけ、顔を撫でて、微笑みかける私は、おろかでしょうか。

だとしたら、私は、もう。
もう、このまま、狂ってしまってもいいでしょうか。
自分の存在意義なんて。
貴方がいなければ、何一つ、ないというのに。

「モーリス、どうしたの?」

考え込んでいた私は、その言葉にハッとして、我に返りました。
遊びに行かせていたモートが王国まで帰ってきていました。私はモートに笑いかけました。

「いや、なんでもない。どうしたらキングが目を覚ましてくれるのか考えていたんだ。」

「きっと、目を覚ますよ!モート、わかるもん。」

「ああ、そうだな。」

そうです。
だから。

「今日も、お天気がいいんですよ、キング。」


私は貴方のそばにいますからね。
我らがキング・ジュリアン。



end.



壊れる一歩手前のモーリス様とか。
諦めたらそこで試合終了かもしれないけど、諦めたら、そこから始まる世界もあるんだろうな〜と。どちらがモーリスにとって、いいのでしょうね。
題名はチャットモンチーの曲から。


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