まだ、始まったばかり。






「シンジン、スキ」

そう言われたのはいつだったかな。
僕はリコのことが好きだった。ハチャメチャでクレイジーで、常識なんて通じない。
だけど、そこが何だかかっこよくって、隊長やコワルスキーに対するそれとは少し違う感情で、リコに憧れを抱いていた。

だからそう言ってもらったときは本当にうれしかった。
僕らはリコのその一言から付き合うことになって、何とはなしに二人きりになったときはくすぐったいような気恥しいような気持ちで、リコに頭を撫でてもらったりしていた。
二人だけになるとリコは、ちょっとふざけるような感じで、そっぽを向いて口笛を吹きながら僕を引き寄せて、それからぎゅっと抱きしめてくれたりした。

僕はそれだけでとっても嬉しくって、その幼い関係にドキドキして満足していた。
でも、そんな中でひとつだけどうしても許せないことがあった。

パーキーちゃんのことだ。

僕だってルナコーンが大好きだけど、パーキーちゃんに対するリコの態度は僕のそれとは違う、だって恋人みたいなんだ。リコの恋人は僕じゃないの?って、いらいらして。
パーキーちゃんが人形だってわかっていても、リコが想像の世界でパーキーちゃんと仲良くしているのは許せなかった。

「僕と、パーキーちゃんとどっちが大切なの!」

そしてついにある日、僕がそう言って怒ると、リコはその人形を抱いたまま困った顔をした。そしてさっと背中にパーキーちゃんを隠すと、「アーハン?」とごまかすように笑った。
僕はその態度にますます腹が立って、「もういい!リコなんて大嫌い!」と大声で怒鳴って基地の外に飛び出した。背中に、シンジン、とリコが呟いたような声を聴いたけど、聞こえないふりをした。

リコなんて嫌い、嫌い、大嫌い。
そう憤りながらも僕は一人っきりで、動物園の外まで出て、気が付いたらスノーコーンを手にしていた。スノーコーンはとっても甘くて、僕の怒りを少し鎮めてくれた。
そうすると、今度は悲しくなってくる。フレッドの木の近くの、別の木に寄りかかってぼんやり考える。きっと僕のそばにプリンセスビューティフルハートがいたら、優しく「悪いのはあなたじゃないわ」って言ってくれるはずなんだ。そう思いながら僕はしょんぼりしてスノーコーンを舐める。

でも、本当にそうかな。悪いのは、僕じゃないかなぁ。

リコ、さっき僕が出て行った時、とっても悲しそうに僕の名前を呼んでなかっただろうか。それともそんなの、ただの僕の願望?

グルグル考えてたら、木漏れ日がチカチカ、僕の目を触った。スノーコーンは少し溶け出して、僕の代わりにカラフルな涙をこぼしていた。僕はため息を吐いてこう思う。

こんなの駄目だ、謝ろう。
だって、リコは、なんていうか普通じゃないし。リコにはリコだけの世界がたくさんあって、それはまだ僕なんかじゃわかんなくって。そうだよ、分からないのに、どうして「僕だけ見て」なんて言えるの?

「うー・・・・・」

やっぱり駄目。どうしても嫌だった。リコが、僕のことをわかってくれないから悪いんだ。

「やっぱり、リコなんて嫌い!」

そう叫んで、腹いせみたいに僕は溶けたスノーコーンを全部食べてしまった。
それからリコの悪口を口に出して言うことにした。

「だって、リコは普通じゃないけど、それにしたって僕がいるところでパーキーちゃんと遊ばなくたってよくない?仮にもリコから好きだって言ってきたのに、こんなのひどい!許せない。それなら僕だってお人形のガールフレンドを作って、リコのいるところでイチャイチャしてやるんだ。きっと僕がどんなに嫌な気持をしているかって、リコも気付くはずだし。そうだ、そうしてやればいいんだ!リコなんて・・・」

「何さっきからわめいてるの?」

「わ、あ??!」

突然の問いかけにビックリして飛び上がると、フレッドが僕の隣に立っていた。
僕は今の悪口を聞かれていたかと思うと、恥ずかしくって赤面した。

「ふ、フレッド・・・今の、聞いてたの・・・?」

「そりゃあ、君がぼくんちの近くで騒いでたら、いやでも聞こえるだろ?」

「ご、ごめん・・・」

「何かあったみたいだけど、何かあったの?」

フレッドが僕にいつものぼんやりした調子で尋ねる。
僕は、フレッドにこんなこと言っても無駄かなぁと思ったけど、とにかくその時はいらいらしてたから、少しだけ今の事態を説明した。

「聞いてよフレッド、僕、付き合ってる人がいるんすけど、その人が僕の前でほかの人とイチャイチャするんっす!その他の人っていうのはまぁ、お人形なんすけど、でも恋人の前でそんなことするなんて最低だと思わない?僕、腹が立ってしょうがなくって!」

「へえ、どうして?」

「どうしてって・・・・」

「だって、人形なんだろ?関係ないじゃないか」

「そうだけど、でも」

「人形に嫉妬するくらいその人が好きなんだ。」

そう言われてハッとした。
そう、あたりまえだけど、こんなに怒ってるのは、リコのことが・・・大好きだからで。
嫌いなんて言って出てきちゃったけど、ほんとは好きすぎて、嫉妬してこんなことしてるんだ。意地を張った反動で、リコへの気持ちが大きくなって、ぼくは居てもたってもいられなくなった。

「フレッド、ありがとう・・・僕行かなくっちゃ!」

「へぇ?」

「君のおかげで僕、救われちゃったっす!ありがとう!じゃあね!」

「なんだかわかんないけど、バイバイ。」

まさかフレッドに言って解決するとは思わなかった。フレッドに手を振って、僕はそこからだダッと駆け出して、僕たちの基地へ・・・ううん、リコのもとへ向かった。
僕が基地に戻ると、リコは自分のベッドで落ち込んだように寝ていた。

リコ、と小さく話しかけると、リコはぱっと起き上がってベッドから飛び降りてきてくれて、待ちかねたように僕に抱きついてきた。

「わぁっ!」

「シンジン、ソーリー・・・」

リコは僕から少し離れると、オェッオェッと口から両手いっぱいに余るくらいのチョコバーを出してきた。そしてそれを僕に渡してくれる。

「コレ、アゲル。キゲンナオシテ」

「リコ・・・?」

「リコ、シンジンノコト、スキ。デモリコ、ドウシテイイカワカンナイ・・・パーキーモ、スキダケド、シンジンモ、スキ。」

僕が悲しんでいるうちに、リコもいろいろ考えてくれてたみたいだった。
そうだよね、だって、パーキーちゃんは、ずっと前からリコの彼女だったけど…
僕は、最近リコの恋人になったばっかりで。僕だって、いきなりルナコーンのことを忘れろ、なんて言われてもそう簡単には出来ない。それに、リコに『フツウ』や『ジョウシキ』を押し付けるのは、なんだか間違ってるよね。だって僕、リコのそこが好きで、付き合ったんだ。だから。

「リコ、いいんだ。嫉妬してごめんね。でも・・・やっぱり、僕がいる時にパーキーちゃんと遊ぶのはやめてほしいっす。悲しくなっちゃうから・・・」

「ワカッタ。モウシナイ。」

「リコは、こんな嫉妬深いのは嫌?」

「ウウン、カワイイ。」

そう言うとリコは僕のクチバシに、コツンとキスをした。
誰かキスをされたのは生まれて初めてで、しかもそれがリコで、僕は真っ赤になって、動揺してチョコバーを取り落す。

「リコ、シンジンノコト、モットミル。」

「あ、ありがと・・・」

そう、だってこれからもっと、いっぱい。
パーキーちゃんのことはやっぱり気になるけど、でも、リコがパーキーちゃんを忘れてくれるくらい、僕がリコのことを見てればいいんだから。
チョコバーが散らばった床の中で、僕たちはぎゅっとハグをした。


END.

ツイッターで仲良くしてくださってる、フォロワーさんにささげたものです!
急いで書いたので、色々荒くって(´・ω・`)申し訳ないです。
ピクシブにも同じものを載せています。


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