Answer you+  



ぼんやりと目が覚めてきて薄目を開けたら、一面に広がる灰色。
いつものベッド。
一体いつの間に、リコはこのコンクリの中に来たんだろう。
なんだか記憶があいまい。

体中が痛くって、ウゥとうなって寝返りを打つ。
そしたら、基地のテーブルが明るい。
見ると隊長が一人起き出していて、サカナの入ったコーヒーをすすってる。

ああ、そうだ。リコは昨日、破壊マシーンになっていたんだった。
あんまり覚えてないけど、みんなに迷惑をかけたと思う。
リコ、何をしたんだろう。
思い出せないことにとても悲しくなって、目をつむって隊長を消した。

だってリコ、疲れ切ってまだ眠いよ。

眠りと、覚醒のあいまいな時間にまどろんで、昨日のことを思い出そうと思った。
でも、今日のまどろみは昨日より深い場所へ落ちてって、少しだけ、昔のことを思い出してしまった。


・・・『リコは乱暴もので、無口で、何を考えているか分からない。』


もう顔も思い出せないそいつらは、そう言ってあんまりリコに近づいてこなかった。

リコは確かに乱暴もの。爆弾ドッカン、破壊大好き。
クレイジーなことはとってもクールだし、かっこいいと思ってる。

それにリコが無口なのは、おしゃべりがあんまり得意じゃないからで、声もガラガラしてて恥ずかしいんだ。

それで喋らないだけだったのに、そんなので怖いなんてとっても心外だった。だから、何を考えてるのかわからないなら、聞いてくれれば答えたのになぁ。


そう思ってた。だけど、今でこそそう思えることも、あの頃は上手く伝えられなくて、やっぱりみんなは近づいてこなかった。

あのころ、リコは、なんだかそこに存在して生きていくってことがとっても大変だったのを覚えてる。


だけどそいつらと離れたころ、リコは隊長やコワルスキーに出会って、それから新人にも出会った。そして変わった。いろんなこと。大切なこと。
だから今はとっても心地好い。生きていきやすい。


皆はリコのクレイジーさを受け入れてくれるし、怖がらないし、沢山しゃべらなくても色んなことが前に進む。


リコは、この居場所が好き。


それなのに、ああそうだ。リコは昨日、気ままなキツネザルと一緒にやりたい放題破壊して、みんなに迷惑をかけたんだ。


羽目を外して破壊して、どんどんどんどん、楽しくオカシクなっちゃって。
昨日、リコの中が、爆発してたんだ。


あの時、楽しかったけど。本当は同時にとっても怖かった。
理性ってものがなくなったとき、リコの危ない中身がいっぱい出てしまって。
リコはリコじゃなくなって、そして今までで一番「リコ」だった。


そうだ、思い出した。


リコの中のドッカンが終わったあと、おぶってくれた隊長の背中は暖かくて、コワルスキーも優しく撫でてくれたけど。


次にまた、あんなになったら、きっともっといっぱい傷つけるかもしれない。
壊したくないものまで壊しちゃうかもしれない。


隊長も、コワルスキーも新人も、パーキーも。



ああ。そっか。



だから、リコはみんなに嫌われてたのかも。怖がられてたのかも。
リコは危ない奴だから、あのアタマの平和なキツネザルみたいにやりたいことばっかりやってたらダメなんだ。


きっと隊長はそれを知ってたんだ。リコの本性を。リコの危なさを。
だから、いつもドッカンのやりすぎはダメって、節度がいるんだって言ってくれてたんだ。


ほんとは、リコが今感じてる心地よさも、みんなと居れるこの場所も、隊長が一緒だからあったのかもしれない。


隊長、すごいなあ。
リコはなんだかもっともっと悲しくなった。


そう言ってくれてた隊長の優しさに気付けなかった自分が、情けなくって、落ち込んだ。



(リコ、隊長にゴメンナサイしないといけない。)



だけど、こんなに悲しくなってしまって、うまく謝れるかわからなくって、すぐ近くにいる隊長のところまで行く勇気が出ない。


早くしないと、コワルスキーと新人が起きてきちゃう。
情けない自分を見られるのは恥ずかしい。だけどとにかく、隊長にだけでもきちんと謝っておかなきゃ、みんなと顔を合わせるのが苦しくなりそうだった。


まどろみはもうどこかへ行ってしまって、隊長への思いがリコの頭をぐるぐる渦巻く。
知らないうちに唸ってたみたい。ゆさゆさ体を揺さぶられたと思ったら、声が降ってきた。


「・・・おいリコ、起きたのか?大丈夫か?」


あぁ、その隊長が、リコのところへやってきちゃった。
ハッとして起き上がって、とっても情けない顔で隊長を見る。


「アーウ・・・」
「唸ってたぞ。昨日は大変だったからな。気分が悪いか?」


隊長は心配そうにリコの顔を覗き込んでくる。
いつものように優しい隊長に、ついさっきまで、まさに目の前の隊長のことを思い詰めていた分の涙がこぼれてしまった。隊長は驚いたみたいでリコを撫でてくれる。


「どうしたんだ?怖い夢でも見たか?」


違う違う、怖いのはリコ。リコ自身。
ちゃんと言わないといけないのに、悲しい心に隊長の優しさが痛くて、うまく言葉にできない。ゴメンナサイが、すぐ言えない。みんなが起きてくるのが怖くて嗚咽を押し殺したら、余計に言葉が出てこない。クチバシと頭をつなぐ眉間の奥が、ギュウギュウ締め付けられるみたいに痛くて、リコは強く目をつむって下を向く。


そうしたら、リコの頭を撫でていた隊長の羽が止まって、それはリコの肩にしっかりと置かれた。そして優しい声音でこう言ってくれた。


「心配するな、お前は、もういつものリコだぞ。怖いことなんてない。」


ああ、やっぱり隊長は何でもオミトオシ、なんでもリコのこと分かってる。
抑えきれなくてとうとうボロボロ泣いて、たどたどしくやっとゴメンナサイと言った。
ホントはもっとたくさん言いたいことがあるのに、もっと伝えたいことがあるのに、おしゃべりが苦手なリコはそれだけしか言えない。


だけど、やっぱり隊長は隊長で、あいつらとは違って。
ちゃんとリコの言いたいこと分かってくれた。


「大丈夫だリコ。お前は、破壊マシーンなんかじゃない。お前は私の、節度と良識を持った大切な部下だ!」


下を向いてたリコの頭を両羽で挟んで、顔を上げさせて、しっかりリコの目を見てそう言って笑いかけてくれた隊長に、リコはもうあんなこと、二度としないって誓ったよ。



FIN.


『ドッカーンに首ったけ』の次の日のお話。

相互サイト様、【C'n'C】の中沢様へ捧げものとして書かせていただきました!
こんなんで申し訳ありませんが楽しんでいただけたら幸いです。

捧げものということで、可愛く仕上げたつもりだったんですがけっこう暗かったかも(笑)
隊長+リコ?くらいですかね。
隊長は、危なくてクレイジーなリコも、しゃべるのが苦手なリコもちゃんと受け入れてくれてて、リコがあんまり色んなこと言わなくってもリコのこと分かってくれるんだよーって。
まあでも隊長はみんなの隊長なので、リコだけじゃなくってみんなのこと分かってるんでしょうけどね!
隊長はやっぱり、きちんと隊長なのだなーと思うのです。



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