小さな花畑



ずるずるに伸びた服の袖で涙を拭きながら、せっかくのお花畑だったのに、と鼻声のフレイキーが言った。


夕方、僕のトレイラーで砂利道の田舎らしい土手を走っていた時に小さな花畑を見つけたんだ。春だなぁなんて思っていたら、フレイキーが珍しく自分から行きたいと言ったのでトレイラーを降りて連れてきたんだった。

小さな花畑。
フレイキーはさっきまで助手席からじっと眺めていたその場所へ着くと、小さな手をぎゅっと握って立ち尽くした。
地面に茂っている小さな赤や青、それを取り巻く緑を凝視したまま動かない。

顔を覗き込むと、下唇を少しだけ噛んで、泣く前のような顔をしていた。
僕がしゃがんで、一つ二つかわいらしい草花を摘んでみせたら彼女は小さくはにかむようにしたけど、やっぱり自分からは花に触ろうとしなかった。渡そうとしても、受け取らなかった。

だけどそこから動こうとしないから、きっとここに居たいのだろうと思ってフレイキーの頭をぽんぽんと撫でた。
しばらくそうして、立ち尽くしたフレイキーのそばで花を眺めていた。


誰に見られるでもない、小さな花たち。
こうやって、フレイキーが見たいと言うまでは、ただそこに咲いているだけだった花たち。
僕はなんとなく、彼女がこの花に自分自身を写しているのかもしれないと思った。


「わ、や・・・っ!」

突然フレイキーが声を上げた。蜂だ。けっこう大きな。
フレイキーは怯んで涙目になると、逃げ出してしまった。僕と花畑を置いて。

取り残された僕はさっき摘んだ花を持ったままトレイラーとは反対の方角へ逃げだしたフレイキーめがけて走り、捕まえて、恐怖でおどおどと落ち着かない彼女の頬を撫でた。

大丈夫だから、帰ろう。
そう言うと、今度は安心したのか、泣き出して僕にしがみついた。
本当に忙しい子。

とにかくなだめて、一緒にトレイラーへと向かう道へ足を向けた。



そして、とぼとぼ短い帰り道。

まだ少し泣いて、しょんぼりしたフレイキーの隣を歩きながら、トレイラーの中にまだ夕飯に出来るものが残っていただろうかとぼんやり考えていた。

すると突然、フレイキーが僕の腕をつかんで止まった。
ぼんやりしていたからそれと同時にストップできず、出来た距離にフレイキーが少し爪先立ちになった。

「どうしたの。」

聞くと、フレイキーが消え入りそうな声で僕にごめんなさいと言った。
僕は笑って、かまわないよと言った。
だけどフレイキーはかむりを振って、そして、涙で目を赤く腫らした顔を上げて、

「だって、連れてってくれて、嬉しかったの。」

そう言ってくれた。
いつもは、悲しいだとか怖いだとかばかりで、ほとんどそれ以外の感情を表そうとしないフレイキーが、声を震わせながらも懸命にそう言ったんだ。

僕は嬉しかった。

フレイキーが変わってきている。この子が、新しく自分を見つけ出しはじめたんだ。そう思った。


そして、ぎゅうと僕の服の袖を掴んだこの子の服を見て、新しいのを買ってあげなくちゃなあと思ったんだ。


END

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