ノックの音に扉を開けると、なんだかよくわからないけど足元にランピーがいた。 ほふく前進みたいな恰好をしているランピーの両足はなくなってて、顔なんか鼻水とよだれと涙まみれになってて。なのに、彼は、僕の顔を見て、へらりと笑ったんだ。 「アハ。ただいま、フレイキー…」 そして僕は、あぶくを吐いて後ろに倒れた。 <Out On A Limb , after> 目が覚めると、僕はさっき倒れた場所そのままに居た。一瞬ぼんやりしたけどさっきの出来事を思い出し、はっと我に返って起き上がり部屋を見回すと、ぐったりとソファーに座っている、とてつもなく疲れた顔のランピーと目があった。 「…あ、起きたあ?」 「わ、あ、あああああああッ?!」 のんびり口を開いた彼にはやっぱり、足がない。ひざから下の部分。 自分でしたのか、そこには包帯が巻かれてたけど、僕は真っ青になってすぐさまそこからソファーまで行って、ランピーに飛びついた。 「どどどどどどうしちゃったの?!なにがあったの?ごめんなさいなんにもできなくって僕、僕・・・びっくりして、ごめん!ランピー、ランピー大丈夫?!」 「うん、ちょっと木に挟まれちゃって…」 「木に?どうして、でも、よく無事だったね、帰ってきちゃって、あの、ぅ、わぁん…ッ」 テンパってしまった僕は、どう考えてもランピーのほうが大変なのに泣いてしまって、ランピー疲れてるのに、さらに疲れさせちゃうって思ったんだけど止まらなかった。 「ごめんねえ、びっくりしたよね?そんなに泣かないでいいから、ね?」 「う、ぅえっ、な、なんで?どうし、どうして、大丈夫・・・?」 「大丈夫、さっき自分で鎮静剤も打ったし、明日には元通りだよぉ」 泣きながらも途切れ途切れに事情を聴こうとすると、そう言って僕の頭を撫でてくれた。 ホントにごめん。こんなに優しいランピーに何にもしてあげられない僕、なんて情けない。また泣いた。ごめん、なさい。 2 少し落ち着いてからあらためてランピーの話を聞くと、どうやらマキにしようと切り倒した木に片足がはさまれてしまったらしい。 それで、動けなくなったから、たまたま持ってたスプーンで自分で足を切ったって。 ほんとにこの人何するかわかんないなって、クラクラしてちょっと吐きそうになりながらその話を聞いてた。 僕だったら、助けを待つか、せめて一思いに、できるだけ痛くないようにすぐ死んじゃえる方法を考えたと思う。 「で、でも、挟まれたのは片足だけでしょ?どうして両方の足がないの?」 「それがねえ、かたっぽ間違えちゃったんだよね。」 さらっと言ったランピーに、僕は息を止めて絶句した。いよいよ吐きそう。 でも、ランピーらしいといえば、とっても、それらしかった。 3 とにかく明日になるまではランピーの足は治らない。 ランピーは、僕がびっくりして倒れたのをほったらかしてごめんねって言ったけど、両足がないんじゃそんなこと気を使ってもらうほうが申し訳ない。 逆に何にもしてあげられずに倒れちゃった僕が悪いんだから、今日は一日動けないランピーに尽くしてあげようと思った。 ともかく、ランピーは少しでも寝るべきだ。というか今まで起きてたことと、寝させてあげてなかったことが問題っていうか…ああ、本当にごめんなさい。 というわけで、僕が買い物に行く間しっかり眠っててもらうことにした。 「じゃあ、行ってくるね。帰ったらたくさん栄養のあるもの作ってあげるから、しっかり寝ててね。」 「うん、サンドイッチがいいなあ」 「うーん、わかった。」 たぶん、サンドイッチよりオートミールなんかのほうが今はいいんだろうけど。 そう思いつつ、僕はガチャリとドアノブを捻った。 スーパーに向かいながらはぁ、とため息を吐く。 本当にびっくりした。ランピーってどうしてあんなに頑丈なんだろう。 突拍子もないことばっかりするし、何でもやっちゃうわりに変なとこ不器用で危なっかしくて、もう、すっごく心配。見てて本当にはらはらしちゃう。 ちゃんと寝ててくれればいいけど、また下手に動いて怪我とかしてたら、やだなあ。 ぐるぐる考えてたらスーパーについた。 お店に入って、一応オートミールと、ミルクと、果物、野菜、それからサンドイッチの材料と。他にも包帯とか消毒液とか、ある程度必要そうなものを買い物かごに入れて、レジに持っていくと…僕に気付いていたんだろう。 にっこり笑ったギグルスがそこに居た。 「ハロー、フレイキー。」 「ギグルス!ハロー。アルバイトお疲れさまだね。」 「ありがとう。でも今日はお客さん少ないし、そうでもないわ。お買いもの?」 「うん、それがね…」 他に並んでくる人もいなかったので、お金を払ってからもそこで少しお話をした。 ギグルスが、サンドイッチの材料を買ってるってことは今日はランピーが来てるの?と聞いてきたので、さっきまでの一連の事情を話すとギグルスもやっぱり僕とおんなじように絶句した。 「でも、そんなランピーと付き合っちゃうフレイキーって、本当に物好きね…」 そう言われて、ぼぼっと顔が赤くなっちゃったあたり、否定はできなかった。 4 「ただいまー・・・」 買い物から帰ったけど、ランピーはまだ寝てるかもしれないから、起こさないようゆっくり戸を開けた。 お部屋に入るとランピーはやっぱりまだ寝てた。僕はそっとキッチンに買い物袋を置いて、 ランピーのそばへ行って、そして、こっそり寝顔にキスをした。おでこにチュッ。 そしたらちょっぴりよだれを垂らしてるランピーのほっぺを優しくなでる。 顔にかかる水色の髪の毛をそっとはらう。 僕より10歳近く年上なくせに、あどけない顔をして寝てる、馬鹿なランピー。 こんなにボロボロになって、両足ともなくしたのに死なずにわざわざうちまで戻ってきて。 『フレイキー(風変わり)』なんて名前の僕よりずっとずっと変わってて、でも優しくて、かわいいランピー。手を取って、その手の甲を自分の頬へあてる。とても暖かい。 僕は、本当に、君が好き。 幸せに浸っていると、ふっと僕の頬にあったその手が動いた。 「フレイキー、お帰り。」 ランピーが起きてしまったみたい。 さっきの手がポンポンと僕の頭を撫でて、それから今度はそれが二つになって僕を捕えて、ぎゅうと抱きしめられた。 びっくりしてあわわわわ、なんて焦ってたら、さっき寝込みを襲ったくせにこんなことで照れるの?と言われてしまった。おでこにキスしたこと、ばれてたの…? 赤面しておとなしくなった僕を見て、ランピーは明るく笑った。 to be continued? ,back |