「ねえねえ、なまえちゃん知らない?」
「見てないけど、っていうかボクずっとレイジとここに居たじゃん」
「愚民がどうなろうと知ったことではないが、視界には入らんかったな」
「えー、どこ行っちゃったんだろ…」

茶化して言ってるけど、かなり心配。

今からソングステーションの収録で、楽屋に待機しているわけだけれど。

なまえちゃんはぼくの恋人で、シャイニング専属の作詞家さん。
新曲の歌詞のアイディアにしたいからと言って、今日の収録にもついてきている。

仕事の為になるなら、と今までも見学にくることは珍しくなかったんだけど、見学というよりはマネージャーかってくらいに動き回る。
今だってミューちゃんが好きなジュースが用意されていなかったことに気付いて、買いに行ってしまった。

どこにでもあるジュースだし、このフロアの自販機にも入っていたはず。
なのに、どうしてこんなにも帰りが遅いのか。

「ぼくちょっと探してく…ぶっ!」
「ってぇ…オイ嶺二!前見て歩け!」
「ごめんねランラン!あ、ねえ、なまえちゃん見なかった?」

ドアに手を伸ばしたら、ふわりと開いてランランが入ってきた。
急には止まれなくて胸に顔をぶつけてしまったけど、さり気なく肩を支えてくれるのがランランの優しさだなぁ…

「あー…そこの自販機の前でなんか話してたぞ。うちんとこの作曲家だから仕事の話でもしてたんじゃねーの」
「なーんだ、後輩ちゃんかー!そういえば後輩ちゃんの曲にまた詞をつけるって言ってたような」
「春歌じゃなくて、男だったぞ」
「ごめん、迎えに行ってくる」

なまえちゃんが男と話していた、なんて聞いて、嫌な予感がして楽屋を出た。
いやいや、うちの作曲家ならランランの言う通り仕事の話かも知れないしね。

廊下を進んで角を曲がると自販機があったはずだ。
そっと覗き込むと、そこにはなまえちゃんと知らない男がいた。

「お願い!みょうじさん!」
「でも…」
「俺、すっごく好きで…その想いが詰まった手紙なんだ」
「それはわかるんですけど…」
「相手がいるのかな?」
「えっと、それは…」

仕事の話であってほしいと願っていたけど、これはどう聞いたって告白現場でしょ。
なまえちゃんの手には小さな封筒があって、楽屋を出た時には無かったそれはつまりラブレターってやつで。

どうしてなまえちゃんはそんなに困っているんだろう。
以前、ひょんなことから「告白された時ってどう断ってる?」なんて話になったとき、彼女は迷いもせずに
「彼氏いるから、って断ってる。ちなみに遠距離のサラリーマンっていう設定だよ?」
って答えてくれた。

ぼくはアイドルだから、とかシャイニングは恋愛禁止だから、って言えば済む話だけど、なまえちゃんは作詞家だからそんな制約は無い。
恋愛だって自由にしていいんだけど、相手がいるとか、ましてそれがぼくだってことがバレると色々と大変だから嘘をついてくれているらしい。

って言っても、シャイニング事務所の中では公認だと思ってたんだけどなあ…

同じ事務所にいて知らないこの男にも驚いたけど、きっぱり断らないなまえちゃんにはもっと驚いた。

彼氏がいるって、なんで言わないの?
告白を受けて、何をそんなに迷っているの?

なまえちゃんはぼくと別れてこの男と付き合うつもりなんだろうか?

そう考えたらお腹の中に黒いものがぐるぐるして止まらない。
こちらに背を向けているなまえちゃんの肩を叩いて声をかけた。

「やっほー、なまえちゃん!あんまり遅いから心配したよ?」
「嶺二!ごめんね、ちょっとお仕事の話で…」

目をそらして慌てちゃって、そんなのでぼくが騙されると思ったの?

「ふーん、そうなの?お邪魔しちゃったね」
「いや、こちらこそ引き止めてすみません。じゃあみょうじさん、よろしくね…寿さんもお疲れ様です」
「お疲れちゃーん」

ぼくが来た途端に気まずそうにする男に確信が持てた。
なまえちゃんははっとしたように目の前の自販機でジュースを買って、何事もなかったかのように笑いかけてくる。

「ちょっと話し込んじゃったね、ごめんなさい。迎えに来てくれてありがとう」
「…なまえちゃん、ぼくに何か言いたいことあるんじゃないの?」
「えっ?言いたいこと?」

演技が上手になっちゃって…
君は作詞家で、女優じゃない。
こんなことなら現場に連れまわすんじゃなかったよ。

「そう、何か隠してるよね?」
「そんなこと…嶺二、もしかして、その…怒ってる…?」
「ぼくちんそんなに心が広いわけでも大人でもないからねー、すっごく怒ってるよ?」
「ちょっと待って、私が何かしちゃったなら謝るけど、どうしちゃったの?」
「…自分で考えなよ」

自分でもびっくりするくらいの低くて冷たい声が出た。
ここまで言ってもわからないフリを通すのか。

今のなまえちゃんの演技はとっても上手だけど、それで騙されるような安い目は持ち合わせていないんだよ。




「あ、レイジ遅い!」
「メンゴメンゴ!あれれ?なんでみんな着替えちゃってるの?」
「嶺二が出て行ってからスタッフが入れ違いで入って来て、機材トラブルで収録は延期だとよ」
「ということなので、俺は次の現場に向かう」
「あ、うん、お疲れちゃん!」
「あっ、カミュ!このジュース、よかったら移動中にでも飲んで?」
「ほう…愚民の割にやるではないか」

ぼくの隣を通って行ったミューちゃんを、なまえちゃんが引き止める。
さっき買ったばかりのジュースを手渡すと、嬉しそうなミューちゃんがなまえちゃんの頭をわしわしと撫でた。

「寿…何をしている」
「え、っと…あはは、なんでもない!」

気付いたらその手を握って、なまえちゃんの頭から引き剥がしていた。
わかってないのはなまえちゃんとミューちゃんだけで、ランランとアイアイは呆れたような目で見てくる。

「ほらカミュ、行くんでしょ?」
「おれも帰って一眠りすっかな」
「おい、二人して背中を押すな!」
「みんなお疲れちゃーん」
「お疲れ様!」

三人はさっさと出て行ってしまった。
そんな空気を作ったのはぼくで、もう何をやっているんだか。
ぼくが一番お兄さんなのにな…

ちらりとなまえちゃんを見ると、鞄に先程の手紙をしまっているところだった。
それで少し落ち着いたと思っていた熱がふつふつとこみ上げて来て、ぼくは頭の中でスケジュールを確認する。

今日はソングステーションが終わったら明日の夜まで仕事はない。
なまえちゃんも急ぎの仕事はなかったはずだし、そもそも今日も明日もぼくの付き添いをする予定だったんだから大丈夫だよね、うん。

「なまえちゃん、帰ろっか」
「私、今日は寮に帰る…嶺二の考えてることがわからないから」
「じゃあぼくが教えてあげるよ、帰ろう?」
「さっきは自分で考えなよって言ったじゃない」
「帰ろう?」

肩が震えてる。
ぼくの笑顔、そんなに怖いかな?
みんなはこの笑顔を可愛いって褒めてくれるのに。

手を引いて車に乗せて、そのまま同居しているマンションまで飛ばして帰る。
ぼくもなまえちゃんも、一言も喋らなかった。





「いった…ちょっと、嶺二!」
「なに?」
「やだ、やめて!」
「それはぼくがいやだな」
「ふざけないで…っ!」


部屋についてからそのまま寝室まで引っ張っていって、ベッドに押し倒した。
その上から跨いで両手を押さえ付けて、抵抗できないなまえちゃんも可愛いよ。


でもこれじゃあ片手でしかなまえちゃんに触れられない。
ふと見ると枕元にバスローブのベルトが落ちていた。
ラッキー。これでなまえちゃんの両手を縛ると、一気に大人しくなった。


「ねえ嶺二、冗談でしょ?離してよ、これ」
「ぼく言ったよね、すんごく怒ってるって。どうしてわからないの?」
「だからって、これはやりすぎでしょ?」

これがやりすぎだとしたら、さっきのなまえちゃんの行為はなんなの?
あんなの裏切りじゃん。
自分のことだけ棚に上げるのって、ズルいと思うなぁ。

「ぼく、すっごいムカついてるの。なまえちゃんに優しくしてあげられる自信もないよ」
「な、何言って…やだ、嶺二っ!やだあっ!」
「あはっ、痛い?痛いよねぇ?でもやめてあげなーいっ」

スカートに手を入れて、下着に指を捩じ込む。
まったく濡れていないそこだけど、まあ粘膜だし指の一本くらいはなんとか入る。

なまえちゃんは脚を閉じようとするけど、ぼくの身体が邪魔をしてそんなこともできない。
単語すら喋れないのか、浅く息を繰り返しては首を振って拒否を示す。

泣いたってだめだよ、許してあげない。

ベッドの下を探ってローションのボトルを取り出す。
いつもだったら丹念に身体中を愛して、痛くないように細心の注意を払って行為を進める。
だからこれは本来なら「スパイス」感覚で使うもの。
たまにこんなのを使うと燃えちゃうじゃない?

でも今日は潤滑油として使うよ。
痛くていいんだよ、痛くしてるんだから。
泣いて嫌がるなまえちゃんの顔が見たいなんて、ぼくはやっぱりどこかおかしいみたいだ。

「冷たいけど我慢してね?ちょっとの辛抱だかんねー」
「れ、じ…っ、いたい…」
「そうだよねぇ、痛いよねぇ…でもぼくも痛いんだよ?」

心が痛くて痛くて、涙も出てこない。
こんな想いをするくらいなら、好きにならなきゃよかった。
特別なんて作るんじゃなかった。

ローションを使うと結構滑らかに指も出し入れできるようになって、これならいいかなと判断する。
素早く自身を取り出して、ゴムを着けた。
一瞬ともいえるような短い時間だったと思うけど、それでもなまえちゃんは次に何をするかが分かったようで、今までで一番の抵抗を見せる。

「やだ、嶺二…やめっ、い…ああっ!」
「嫌なの?でも入っちゃったし、楽しもうよ」
「や、だぁっ…いや、嶺二…れ、いじっ」
「そんなにぼくは嫌?ぼくと別れたい?ぼくのこと嫌いになったの?」
「嶺二…っ?」
「告白されて嬉しかったんだよね?ぼくと別れてあの男と付き合うつもりなんだよね?断らなかったって、そういうことだよね?」
「嶺二っ!」

大声で名前を呼ばれて、ハッとした。
痛いんだろうなぁ、小刻みに震えて息は荒いままだ。
それでも必死に喋ろうとしている。

「ちょっと待って、告白って何の話?」
「ここまでバレてるのにまだ隠す気?ぼく見ちゃったんだよ、なまえちゃんがあの男にラブレター渡されて告白されてるところ!」
「…まさかそれでこんなこと、したの?」
「ぼくはね、狡い男なんだよ。ぼくを捨てていくならせめて最後に消えないくらいの傷を付けたい」
「誰が嶺二を捨てるの?」
「なまえちゃんってば演技が上手になっちゃったね」

ぺちん、と縛られたままの手がぼくの頬を打った。
全然痛くない。力も上手く入らないみたいだし、当たり前か。

「嶺二のバカ。途中だけ切り取って見て、なに勘違いしてんのよ」
「へ?途中?」
「あの人はね、ハルちゃんが好きなの!で、私に手紙を渡してくれって頼んでたの!」

なんだったらあの手紙持って来なさいよ、七海春歌さまって書いてあるから!
そう言って、今度は頬を抓ってくる。

これは痛い。
熱を持って、小さな指先が物凄い力を込めてくる。

でもそれだけじゃない。
だんだんと目が覚めてくるような痛みだ。

「私、前にも言ったけど、ちゃんと彼氏がいるって断ってるし…嶺二しか好きじゃないんだよ…」

ふっと痛みが引いたかと思ったら、その手は彼女の顔を覆ってしまった。
泣かせてしまった。
一番泣かせてはいけないはずの人を、自分で泣かせてしまった。

「なまえちゃん!ごめん、ごめんね!ぼく、なまえちゃんがいなくなったらって思ったら怖くて怖くて、どうしても繋ぎ止めておきたくて…ごめんね、信じてあげられなかった」
「ちゃんと説明しなかった私も悪かったね、ごめんね」
「なまえちゃんは謝らないで!ぼくが悪いんだから…」
「なんて顔してるの、アイドルでしょ?ほら、泣かないの!イケメンが台無しだよ?」
「ぼくイケメン?ぼくちゃんとかっこいい?」
「世界で一番かっこいい、私の自慢の彼氏だよ」
「えへへ…なまえちゃんに言われると嬉しいな…ねぇ、続きしていい?」

多分だらしなく緩みきった顔をしているんだろうけど、それでもなまえちゃんはこっちの方がいいと言う。
ぼくよりも一枚も二枚も上手な彼女の手の平で転がされている感じも否めないが、幸せの形って人それぞれだし。
あんなにも酷いことをしたぼくを、ちゃんと叱って甘やかしてくれる、最高の彼女だ。

やっぱり手放したくない。
ぼくには勿体ないかも知れないけど、どうしても一緒にいたい。

そんな色んな気持ちが詰まっているはずなんだけど、どうも下半身だけで生きているかのような発言になってしまう。
いや、続きはしたい。だけど、これ以上なまえちゃんに負担をかけるようなら遠慮なく言ってほしい。
その時はぼく、トイレで頑張ってくるから!

「ぷっ…嶺二、我慢できなさすぎ…いいよ、嶺二のこと感じたい」
「なまえちゃん、それ最上級の誘い文句だから」

手のベルトをほどいて、唇にキスを一つ。
今日初めての、やさしいキスだった。








「嶺二、ちゃんとメモして…あーもうっ!漢字が違う!」
「ううっ…ぼくちんちょっと日本語苦手かも…」
「うっさい!黙って書く!私の手なんでしょ!?」


「あー…嶺二、一応聞くけど、どうしてなまえの奴隷やってんだ?」
「えっと、なまえちゃんが両手ケガしてるじゃん?それってぼくのせいっていうか…」
「ああ!?お前、女に手ぇ上げるような男だったのかよ!」
「ランマル、ちょっと違うかも…ボクが見た感じだと、それ擦り傷じゃないかな?しかもそれ以外に外傷はなさそうだ」
「両手首だけに擦り傷…どのような状況だ?愚民、説明してみろ」
「あれ、ランマル顔が真っ赤だよ?何かわかったの?教えてよ」
「その、なんだ、15歳にはまだ早い…まあどっちにしろ嶺二はやりすぎだろ」
「おいなまえ、何か言ってみせろ。貴様も黒崎と同じように顔が赤いぞ」
「ぼくちんのなまえちゃんをいじめないでーっ!」


J/URGE
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -