「風呂に、入りませんか」
「その手に持っている物はなんですか」
「マットとローションとアヒルと椅子です」
「スケベ椅子だよね?それ」
「そうとも言えなくもないな」
「アヒルだけ寄越してお一人でどうぞ」

脱衣所に向かったはずのナイルが何やらもじもじして戻って来たから何事かと思ったら…
読んでいた本を閉じて、心の底から溜め息をついた。

「アヒルとは風呂に入れるくせに俺は駄目なのかよ!」
「そう言ったつもりだったんだけど、わからなかった?」
「なんでだよー!」
「逆に聞くけど、ソープランドごっこするつもりだったんじゃないの?」
「あわよくばするつもりでしたが何か?」
「何か?じゃなくて!お風呂だけならまだしもそんな下心丸出しで恥ずかしくないの?」
「好きな女の裸を拝んで勃たねぇ奴はインポかゲイだ」

ナイルはそこそこ地位のある大人で結構賢くて、聞けば訓練兵団はエルヴィン団長を押さえて主席で卒業したという。
なのにどうしてこんなに頭のゆるやかな発言をするんだろう。

そして、下品すぎる求愛にほんの少しでも胸をときめかせた私はバカだ。

「お風呂だけなら考える余地があったのに…」
「えっ、じゃあ風呂だけでいい!」
「触らない?」
「洗いあいとか…したい…」
「触らない?」
「触りません」
「見ない?」
「…見な…い……」
「やっぱ嫌だわ、お先にどうぞ?」
「俺かなり頑張った返答しただろ!?」

ぎゃんぎゃんうるさい…
初めて会った時のこの人はこんなんじゃなくて、むしろ恐怖を覚えたものだけれど。

「もういい、なまえが先に入れよ」
「えー、なんか嫌だ」
「おっさんのダシが出た湯船なんか嫌だろ?」


なんやかんや言いくるめられて無事にお風呂に浸かることができたけど…
その間に隙あらば覗いてやろうという魂胆丸出しのナイルが現れて、何度も物を投げた。

結局、浴室の中から鍵をかけてしまえば後は極楽だった。

「なまえー!なんでだよー!今更裸なんて見たって恥ずかしくないだろー?」
「うるさいな…」

鍵をかけたそのドアの向こうにうっすら人影が見える。
というかバンバン叩いて開けろとうるさい。

「うるさいってなんだよ、お前なあ!…あ、」

急にドアの前から影が消えて足音が遠ざかった。
何かあったのだろうか?
なるべくおとなしくして聞き耳を立てていると、また足音が近付いてくる。

「なまえ、大変だ!エルヴィンが」
「だ、団長が!?」

慌てて鍵を開けた瞬間、勢いよくドアが開いた。
目の前には全裸のナイル。

「エルヴィンがこのアヒルくれたんだぜ!」
「ぎゃああああ!せめて前を隠せ!クソが!」
「流石にここからクソは出ねぇよ。さーて、とりあえず体から洗おうかなーっと」
「で、出るっ!私が出るから!」
「諦め悪いな…恥ずかしいならアヒルと遊んでろよ」

そう言ってドアの前に仁王立ちされると、そっちに目を向けるだけでも嫌な気分になる。
最悪だ、せめて隠してほしい。

すぐに湯船に戻って膝を抱えて縮こまる。
お湯なんて透明だから、なるべく露出を減らそうとなんとか考えた結果だ。

「髪、洗ってやろうか?」
「洗ったもん…ナイルこそ、洗ってほしいんでしょ?」
「お前のそういう賢いところ、大好きだぜ」
「絶対振り向かないでよ?」
「はいはい、優しくしてね?」

鬱陶しい。このテンションは何だ。
もうこの洗面器でも全力で殴れば黙ってくれるだろうか。

諦めて髪を洗ってあげると、意外と大人しくしていた。
しかも気持ち良さそうにしているものだから、つい気が緩んで背中も流してあげることになった。

広い背中は硬くて、でもしなやかで。
普段滅多に見ることの無いそこにタオルを押し当てて滑らせるのは楽しかった。

「前は流石に自分でやる。気持ちよかったぜ」

ありがとな、なんて言いながら頭を撫でられると純粋に嬉しい。
多分それが顔にも出ていたのだろう。
ナイルは手早く体を洗うと私の手を引いた。

「なまえ、お前も洗ってやるよ」
「…私も背中だけでいいよ」
「あいよ、っと…痛くないか?」
「んー、丁度いい感じ!気持ちいいよ」
「そりゃよかった」

変なところで器用なナイルだから、身体を滑るスポンジの力加減も絶妙で気持ちいい。
ふわりと身を任せた瞬間に、スポンジがお腹へと移ってくる。

「ちょ、っと!ナイル!触らないって言ってたじゃん!」
「手では触ってないだろ?スポンジだ。身体を綺麗にするためだけの道具だと思ってたけどな?」

そんな言い方をされたら、私がスポンジなんかで感じる変態みたいじゃないか。
悔しくて背筋を伸ばして無抵抗の意思を表明する。

するとやっぱり悪意があるみたいに、その手は上へ上へとやってきて、執拗に胸の辺りを撫で回す。
スポンジのなんとも言えないスカスカな感触と石鹸のぬるつきで、反応してしまう自分が恥ずかしい。

「ナイル…も、胸はいいから…っ」
「そうだな、じゃあこっちも…よっ、と」

おっさんらしい掛け声とともに脚が開かれた。
ナイルからは見えないとは分かっていても、こんなに明るいところでするものじゃない。

「やだ…あっ、や…んっ」
「おいおい、洗ってるだけなのに何て声だよ」
「や、スポンジやだっ…あ」
「手の方がいいか?」

もうここまで来たら恥ずかしいも何もない。
その言葉を待っていたかのように、ナイルはスポンジを投げ出して泡まみれの手を伸ばしてきた。

「ぬるぬる滑って上手く洗えねぇな?」
「あ、洗う気なんて…っな、いじゃん…」
「んー?おっと、ここは念入りにしとくからな」

どう見たって胸を洗うというよりは揉んでいると思うのだけれど…
すぐに指先が先端を捉えて摘まむけれど、泡で滑ってばかりいる。
摘まんでは滑らせて離しての繰り返しで、扱かれているみたいだ。

「やあ、っ…それ、やだあ…」
「嫌じゃないだろ?ああ、足りないか?」

やめて、と言ったつもりがどうして催促に聞こえるのだろう?
手が離れたと思えば頭からたっぷりの湯をかけられる。
せめて一言かけてほしいと抗議したくて振り向くと、顔を両側からがっちり固定されてキスをされた。

お湯を鼻から吸ってしまわないように息を止めていたところで口を塞がれたから、苦しくて肩を押す。
その両脇が緩んだ瞬間に、ナイルの手が胸に伸びた。

「滑らないほうがちゃんと掴めるもんな」
「や、だぁ…いっ、た…」
「痛かったか?」

悪かったな、なんて言いながらも、さっきは絶対にわざとだ。
先端を潰されるかと思うくらいに抓られて、今は逆に触れるか触れないかの距離で指先を動かしている。
じんじんと痛むそこをそんな風に撫でられると、痒みに似た感覚が湧いてくる。

少し喋らせてくれたけれど、また口を塞がれて、今度は舌を甘噛みされた。
舌先ばかりを狙って噛んでくるのは、そうされるのが一番好きだというのを知られてからだ。

「っは、なんだかんだで絆されてくれてるな?」
「本当に、我慢できない旦那を持つと大変だわ」
「俺は身体を洗ってるつもりだったんだが…あ?ここ、まだ泡が残ってんのか?」
「んっ!や、ああ…」
「なーんかぬるついてないか?サービスで洗ってやるよ」

そんな鼻息荒く言われても、どっちがどっちへのサービスか、最早わからなくなってきている。
いや、どう考えてもナイルへのサービスなんだけど。

洗う、なんて言っておきながら、指は全部バラバラに動き回っている。
撫で回して掻き回して押し潰して、本当に器用な人だと思う。

「立てるか?」
「無理…やだ…」
「お前なあ、ここまできて」
「ベッドがいい……」

文句が続くはずだった唇を塞げば、びっくりしたような顔がでれでれと溶けていく。
私にここまで言わせたんだから、責任取りなさいよ。




「ひっ、あ、ああ…っ!」
「焦らしてる余裕なんてねぇからな、3分だけ耐えてくれよ?」
「ん、っふあ…あ」

3分、普段のナイルからすれば信じられないくらいに短いはずだけれど、なぜかとても長く感じられる。
腰だっていきなり速いテンポで打ち付けられて、お風呂で逆上せかけていたのか目の前がくらくらする。

シーツにしがみつくのもなんだか頼りなくて、ナイルの首に腕を回して抱き寄せた。
お互いの肩に顔を乗せて、胸はぴったり密着している。

「…どうした?今日は大胆すぎやしねぇか?」
「その気に、させておいて…それは、無い、でしょ?」
「男冥利に尽きるな」

そう言うとナイルは抽送を止めて、奥に腰を留めたまま、ゆっくりとそこを掻き回すように動き始めた。
どこもかしこもいいところにしか当たらなくて、緩やかな動きが余計に気持ちいい。

「目、開けてろ」

そんなの無理、絶対に無理。
焦点が合わなくなる寸前の距離にナイルの顔があって、見ているだけで頭がおかしくなりそう。

顔を背けるとすぐに手が伸びてきて頬を固定される。
ということはつまり、ナイルも私の顔を見ている。

黒く光る瞳いっぱいに自分が映っていて、恥ずかしいのと嬉しいのとで目の前が真っ白になった。









「もうお風呂ではしないからね」
「まだ何にも使ってないだろ!」
「椅子もマットも必要ないもん!アヒルくらいならいいけど…」
「アヒルぅ?あんなもん何に使えるってんだよ」
「ナイルのココを啄ばむくらいはできるんじゃないの?」

ほんの悪戯心で、ナイルの胸の尖ったところを爪で軽く引っ掻いてやった。
ぴくりと跳ねるものだから、つい笑ってしまう。

「なんだよ、まだ足りなかったのか?」
「まさか。お腹いっぱいだよ」
「遠慮すんなって!なまえに淫乱の気が出てきて嬉しいぜ」
「ちょっと待てヒゲ、それは言いすぎじゃない?」
「そうか?俺の顔見ながら自分で胸押し付けてイッて、脚なんか腰に巻き付けて、どうしようかと悩んだんだが」
「う、嘘だ…」
「別に、俺だけが知ってればいいんだけどな!あー、なまえのイキ顔すげぇエロかった」

緩みきった顔を隠そうともしないで、髪を撫で回してくる。
一方、私は恥ずかしいのか情けないのか、消えてしまいたくなった。

「穴があったら入りたい…」
「奇遇だな、俺もだ」

どう考えてもナイルのそれは下ネタだろう。




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