addiction 「ナイルってインポなの?」 付き合って一ヶ月も清いお付き合いを続けていたら私だって不安になる。 一回り年下だとしても、私も成人して何年も経っているわけだから気を遣われているのならその方向だけは間違っている。 でも、そうじゃないとしたら? 浮気か、いや、いくら憲兵団が暇でも師団長になると忙しいはずだ。 そうしたら、疑うべきはあとひとつ、 「すまん、言っている意味が掴みかねるんだが」 「えっと、勃起不全って言えばわかる?たたないって言うか、」 「そんなもんは分かってんだよ!なんで俺はお前に下半身の心配されなきゃなんねぇんだって訊いてんだよ!」 「だってエルヴィン団長が」 「畜生あの金髪ハゲ!お前もう調査兵団やめろ!」 エルヴィン団長のことを罵られるのは好きじゃない。 ナイルの側に居られるなら憲兵団も魅力的だけど、それ以上に調査兵団を好きだから。 一ヶ月もお手つき無しなんてナイルはEDなんじゃないかと哀れんだ目で言われたと伝えれば、ますます彼の顔は歪む。 ナイルとエルヴィン団長は訓練兵時代の同期だから、言いたいことを言い合える貴重な仲だと聞いている。 だからこそエルヴィン団長の意見が余計に気に入らないんだろう。 「別にな、勃たないわけじゃないんだ」 「と、言うと?」 「勃つことには勃つんだが、一発だけしか持たなくてだな…」 「あー…私、体力無い方だからそっちのがありがたいしいいよ?気にしないよ?」 「すまんな、おっさんと付き合ったばかりに…」 本当に、そんなことで悩んでいたなんて。 それこそ私はナイルがインポでも別に構わなかったのに。 ちょっと面白い噂を吹き込まれたから、それをネタにお喋りを楽しみたかっただけだった。 だからこんな顔をさせてしまって、それがいかに軽率な行動だったかを思い知った。 「こんな話をしてくるなんて、お誘いだと受け取ってもいいか?」 「いいよ、ナイルが好きだから」 「ああ、お前だけは満足させてやるから安心しろ」 こんなワイルドな見た目なのに、キスは柔らかなものだった。 聞いてない、聞いてないよこんなの! 「っああ!ナイ、ル…も、だめ…」 「おーおー、早くて多くて若さってのは羨ましいもんだな」 「や、あっ…ああ!」 確かにナイルはちゃんと立体機動しましたよ。 そして一発しかできないっていうのも嘘ではないんでしょうね。 でも、まさかこんなに遅漏だなんて聞いてない! あのままベッドに二人で倒れこんで、ナイルに身を任せていたら超絶技巧なんていうレベルじゃなくて。 もう何回達したかなんてわからなくなってきて、意識もふらふらふわふわ。 でも、ナイルがまだ一回も達していないのだけはわかる。覚えている。 「ナイル、今度は私が…」 「堪んねぇな、好きにしてくれ」 フラッフラする身体を起こしてベッドから降りて跪く。 ナイルはわしわしと髪を撫でてくれたけど、その仕草には余裕が伺える。 さっきまで私の中に入っていたソレからゴムを外してそっと舌を伸ばすと、ぴくりと反応してくれた。 ゴム臭いし味もゴムだし不愉快だけど、頭の上に置かれた手が徐々に動きをなくしていくのがたまらない。 吸い付いたり、内頬で擦ったり、色々と工夫を凝らしたけれど達することはなくて。 でもいつの間にかゴムの風味は消えて、ナイルの味になっていた。 溢れてきたものが私の手と口周りを遠慮なく汚す。 「っ、ナマエ、もういい…」 「なんで?よくない?」 「いいけど、イきそう」 「出しちゃえばいいのに。ちゃんと飲むよ?」 「一発しか叶わないなら、お前の中がいい」 べたべたになったソレを拭って再びゴムを被せるナイル。 ぽい、と放られたそれは紛れもなく私のパンツで、なんてもの拭いてくれたんだふざけるな。 「ちょっとナイル!それ私のパンツ!」 「あー?別に後で一緒にして洗うんだろ?」 「じゃあ私がナイルのパンツであちこち拭いてもいいわけ?」 「なんだそれ、すっげぇご褒美じゃねぇか」 「ひ、あっ!や、っ」 なんて色気のないセックスなんだこれは。 お互い初めてでは無いにしろ、私たちがするのは初めてだというのに。 冗談を言いあっていたら挿入されたなんてそんなアホな。 遠慮なく突っ込みやがってこのハゲ、と言いかけてやめた。 だって、最初に入れた時よりずっと大きくなっている。 「やっ、あ…無理、だめ…」 「あんまし無理とか駄目とか言われるとおっさん萎えちまうだろ」 「少しは萎えてラクにさせてほしいくらいだわ」 「ん、あとちょっとでラクにしてやっからな」 お前の耳は飾りか、ダサい飾りが内地では流行ってんのね。 腰を掴んでいた手のうち片方が離れたと思ったらそのまま這い上がって胸で止まった。 握るように乱暴に掴んだと思えばすぐに解放して、先端だけを執拗に指先で転がしてくる。 人差し指で撫でて、親指も足して摘まんで捏ねて、親指だけで押し潰して。 このおっさん、こんなに大きな手と太い指なのにかなり器用だ。 「は、あ…ナイル…っ!」 「お前、胸好きなのか?すげぇ締まる」 「う、っさい…も、やら…」 「あー、確かにこっちばっかじゃ不平等だよな」 ちょっとは聞け、と言いたいのに口から出るのはだらしない声ばかり。 首のあたりに埋まっていた顔が離れたと思ったら、空いていた胸に生温かい感触。 舌先だけで舐めたり、品の無い音を立てて吸われたり、唇で挟まれて甘噛みされたり。 指だけじゃなくてこちらも器用でしたか。 その波に耐えられなくてまた達すると、腰も指も口も、全ての動きが止まった。 「っは、また…ごめん…」 「謝ることしてねぇだろ?でも俺も結構、限界近いんだ」 付き合ってくれるだろ? そう言ったナイルの顔は今まで見たことがないものだった。 眉を寄せて、目は壁外で見るような、獲物を狙うそれだ。 日焼けしていてもわかるくらいに頬も赤らんでいるし、それだけで身体の奥が疼く。 両手がまた腰へと戻り、指が食い込むくらいに掴まれて逃げることを許さない。 なんとかシーツに縋って衝撃に耐えていたけれど、ナイルの首に回すことにした。 「…んだよ、キスしたいならそう言えばいいだろ?」 「ふ、っ…あ、ヒゲ、痛っ」 「我慢しろ、そのうちよくなる」 最初の柔らかなキスはなんだったんだろう? これはキスというより捕食に近い。 舌なんて飲み込まれてしまいそうだ。 その間も腰は止めてくれないから、動く度に顔の下半分にヒゲが当たって痛い。 むしろ刺さっているんじゃないかと思うくらいに。 突然、抜ける寸前まで引き抜かれた瞬間、一番奥を突かれた。 キスで頭が緩んだところへこの衝撃だったから、呆気なく達してしまった。 喉の奥から出る変な声をキスと飲み込んだ後、ナイルは唇を離して首筋に歯を立てた。 「あ、いっ…た…!」 「…っ、う、あ…」 ずっと普段通りにお喋りしていたナイルの、噛み殺すような声を初めて聞いた。 悪くない、全然悪くない。 身体は正直すぎるようで、達したばかりで緩んだはずのそこは再び収縮した。 ナイルの熱がどんな形をしているのかわかる気がしたのも束の間、それはもっと膨らんで爆ぜた。 「あー…悪いな、ガス切れだ…」 「こんなに長い一発だなんて聞いてないよ…」 「若い時はヌカロクとかできたんだが、齢って怖いな」 「その体力で六発とか冗談でも笑えないんだけど」 「大丈夫か?まだ足りないならおっさんもそれなりに頑張るけど」 「充分です!」 甘いピロートークなんてこれっぽっちも期待していなかったけれど、ここまでされると流石に… 一応、私もまだまだ年頃の女の子なんだけど。 「んあ?なんだ、腕枕でもした方が良かったか?」 「えー、いいよ、おっさんの腕とか別に興味無い」 「そのおっさんといかがわしいことしておいてよく言うぜ。誘ったのお前だかんな」 「唆したのはそっちだけど、責任取ってくれるの?」 「お前が調査兵団辞めてくれるなら、すぐにでも既成事実作っちまうんだがな」 「っ、ばか!」 「おっ、照れた!よっしゃ、俺もまだまだ現役の男だな!」 不意打ちで、結婚を仄めかされた。 こんな流れで言われたら冗談として流せばいいのだろうけれど、あいにく冗談でも求婚されたのは初めてだったので子供みたいな暴言しか出てこない。 それも全部見透かされていたようで、やっぱり気に食わない。 「エルヴィンの野郎にそれとなく伝えておくから、死ぬ前に引退しろよ。俺に死姦の趣味は無い」 「今のところ決まっている業務はこなしたい…」 「言うと思った。でも、ちゃんと伝えるって」 「ナイルはエルヴィン団長となかなか会えないじゃない」 「ん、だから先にこうして主張しとく」 「へ?…いっ、た…!」 指先にキスを送りながら喋っていたから、唇とヒゲが擦れてくすぐったいと思って気を抜いていた。 意識を指から話題へと向けた瞬間に、そのうち一本を噛まれた。 「ちょっとナイル!笑えないくらい痛いんだけど!」 「お前も鈍い奴だな…俺こそ笑えねぇよ」 文字通り犬みたいな歯を立てられて、熱を持って痛みだすそこをまさに犬のように舐められる。 そんなことされても痛みは引かないんだけど… 鈍いと言われて必死で考える。 噛まれた手は左手で、まさに薬指。 こんなに立派なマーキングをしていただければ、エルヴィン団長もお気付きでしょうね。 私よりずっと年上なのに、やることなすこと子供っぽくて敵わない。 男はいつまでだってガキなんだ、って兵長が言っていたけれど、あながち嘘でもないらしい。 「ここ、先約ってことでツバつけとくわ」 「師団長様の歯形付きだなんて、誰も寄ってこないわよ」 「そりゃよかった」 「では、本日の会議はここまで。解散としよう…それと、ナマエ」 「はい?書類の期限でしたら二枚目に記載が」 「そうじゃなくて、ヴァージンロードは私が歩きたいんだが、どうかな?」 「おいエルヴィン、そりゃまさかあのクソヒゲが手を出したってことか?」 「こらリヴァイ。あんなヒゲでもナマエの恋人…いや、婚約者だよ」 「エルヴィンの同期でもあるし憲兵団の師団長サマだから、どっちにしろリヴァイの上司だよ」 「こうなることもエルヴィンの計画通りなら恐ろしいな…」 「さあ、リヴァイとハンジは負けだ。これは俺とエルヴィンで分けさせてもらう」 とんでもない一言に顔が熱くなったのも束の間、目の前で繰り広げられる会話を冷静に飲み込んでいくと、どうやら私たちは賭けの対象にされていたらしい。 その証拠に、ミケ分隊長は懐から金貨を何枚か取り出して、二つの山にするとそのうち一つを団長に手渡した。 「さ、最低だ…次の壁外調査から戻ったら、除隊届を提出しますっ!」 「憲兵団への異動ではなく、引退ならお受けするよ」 「どっちみち、あのヒゲの下で働くんなら一緒じゃねぇか」 「ねえねえエルヴィン!次は子供の性別でも賭ける?」 「俺は男の子に金貨2枚」 こうなったら男女の双子でも生んで、大番狂わせでもしてやろう。 J/addiction |