愛はネコソギだぜ ※ミケナナ、イアリコ要素が含まれます。 「うっわ、くっせ」 仮にも年頃の女性の部屋に放っていい言葉ではないが、そもそもこれはそこからしていい匂いではない。 事の発端は何だったか。 確か、ナマエの同期が結婚するとかでいつもの3人組で式にも出席したはず。 が、帰ってきたはずのナマエ達が部屋から出てこないと気付いたのはミケだった。 そのうち迎えに呼ばれたという駐屯兵団の班長までやってきて、もしかしたら部屋の中で全員酔い潰れているのでは、とまで言い出した。 ミケが口元にハンカチをあてているから、酒盛りは間違いないのだろう。 が、その立てこもっている部屋はナマエのもので、流石に開けるのも戸惑ったらしい。 兵士とはいえ女性のプライベートルームだからな。 そこにエルヴィンのクソハゲとの仕事を終えた俺が歩いてきたから捕まえられ、ドアを開けさせられた。 開けたら、地獄だった。 「くっせ、おいナマエ!何してんだよ」 「あー…うー?」 「うっ、ナナバ…?」 「ミケ?だっこ…」 「立てるか?リコ」 「らいじょぶだ…っく」 よくもまあこれだけの酒が飲めたな、と思うほど。 排水口ですら詰まるレベルの量だろ、これ。 ビールの瓶、ワインの瓶、ウィスキーと木の実、あとは汚れた皿が何枚か。 恐らく最初はグラスで飲んで、この皿にも手製のつまみでも乗せていたのだろう。 が、最終的にはマグカップまで使い果たしたのか、ボトルから直飲みしたような跡がある。 このリップはナマエの色だな…後で回収しよう。 で、当の本人達はぐでくでに酔っ払っていて、ナマエなんてほぼ寝ている。 頬を叩いても意味の無い言葉しか話さないし、目も開いているが見えているのかどうか。 ミケは片手でハンカチを当てがったまま、もう片手でナナバを担いで避難して行った。 班長…確かイアンと言ったか、彼は片付けを手伝ってくれていたが、眼鏡の方の班長が吐きそうだと訴えると慌てて部屋を出てトイレまで連れて行ったようだった。 「ナマエちゃーん?ちょっと飲み過ぎじゃねぇの?」 「うー?しゃわらないでくだしゃい…」 「かっわいくねぇ…」 「かわいくなくてけっこうれす!」 可愛くないはずが無い。 だが、ちょっと意地悪くらい言わせてくれたっていいじゃねぇか。 ナマエの同期の二人はまだいいとしよう、同性だからな。 でもミケとイアンは男だ。 それぞれの恋人しか見えていない上にそれどころじゃないというのは充分理解しているつもりだが、それでも無防備なナマエを見せたくない微妙な男心だ。 ベルトは緩めただけ、ブラウスも少しボタンを外しただけでは眠るのに適さないだろう。 どうせ何を言っても起きないなら、せめて寝かせてやろうか。 「おらナマエ!首捕まってろ」 「やえてくだしゃい…」 「うわ、おい!暴れるなっつの!」 「やだやだ、はなせぇえ」 横抱きにして運んでやろうと思ったのに、人の好意を踏みにじられる。 担ぐのも大変な程にじたばたと手足を動かすから、両脇に手を差し込んで引きずってベッドに投げた。 酔っ払っていても、あの二人みたいに甘えてくることもなければ名前を呼ばれることもない。 呂律の回らない口からは敬語で拒否の言葉が紡がれる。 それでも尽くす俺は、案外ボランティア精神が高いのかも知れない。 部屋用のスリッパを脱がせ、足までちゃんとベッドに納めてやる。 俺も膝立ちでベッドに乗り上げて、胸元のベルトに手を掛けるとより抵抗が激しくなる。 「いってぇ!お前ね、これだけ動けるなら歩いてベッド来れただろ」 「しゃわるな…はなせぇ」 「酔っ払いに手を出すほど落ちちゃいねぇよ、ベルト外さないと寝る時痛いだろうが…ほら」 「やら、やだぁあ…」 酔っ払いに手を出すほど、というのは半分くらい嘘だ。 ナマエだったらどんな状態でも構わない。 が、同意の無いセックスに興味はない。 今のナマエは冷静に判断出来ない状態で、確認なんて取れたもんじゃない。 つまり、純粋に泥酔したナマエを介抱しているだけだ。 「ほれ、ブラウス汚れてんだろ、洗うぞ」 「やだぁ…はなせ…」 「寒いなら上着貸してやるから、脱げ。シミはなかなか取れないんだぞ」 「…たすけて、ナイル」 「っへ?」 「やだよぉ…ナイルじゃないひとなんか、やだあ…」 えぐえぐと子供みたいに泣き出す彼女に、どうしていいのか分からない。 俺は間違いなくナマエの言う「ナイル」だと思うが、彼女はそれすら判断出来ていないのだろう。 ナマエは、目の前にいるのが本人だと分かっていなくても、そんな状態でも、俺じゃないと嫌だと泣いて抵抗しているのか。 やけに冷たい敬語や必死の抵抗の理由が解明された。 「ぶえ…ないる…」 「…鼻かんで寝とけ、酔っ払いめ」 一般論として、こんな顔中をべたべたに濡らして泣く女に手を出したいと思う奴がいるかどうか。 なんだよ、ぶえ、って。 可愛すぎる、なんだこの生き物、ナマエか。 どうせ明日の昼くらいには目が覚めて、頭が痛いとか気持ち悪いとか、支給品のブラウスが汚れて一枚無駄になったとか言うんだろうな。 面倒臭い、はずなのに。 俺だって眠いから早く寝たいのに。 飲み散らかした残骸をちゃんと片付けて、洗い物ついでに朝食用のリゾットの下ごしらえをして、枕元には水まで置いて。 あれ?俺ってイイ嫁になれそうじゃん?なんて思ったりして。 起き抜けに顔を見ながら吐かれたくらいじゃ動じないあたり、俺も相当みたいだ。 BUCK-TICK/Alice in Wonder Underground |