あなたと迎える 愛する息子の泣き声に目が覚めた。 すぐに寝室のドアが開いて、ナイルがあやしながらその子を連れてきた。 「あー、すまん…腹が減ったみたいで…」 「ううん、寝かせてくれてありがとう」 夜中も定期的に起きて世話をしなければならないから、ナイルが休みの日はこうして昼寝をさせてくれる。 夜中だっておむつ替えなら手伝ってくれるんだけど、授乳だけは彼にできないから。 それにしても、育児に協力的だというのはとても有難いし、嬉しい。 私の腕に抱かれると、今から空腹が満たされることがわかっているかのように声を落とすこの子に笑みが漏れる。 「この0.5m級め…親父の抱っこは嫌いかよ」 「いーや、私に似て食事に目がないんでしょ?」 「どっからどう見たって俺に似てんじゃねーかこいつ。女の好みまで遺伝してるに違いないぜ?」 実の息子に嫉妬するなんて聞いたことがない。 でも確かに全てのパーツがナイルに似ているから、それはそれで面白いけどね。 胸元のボタンを外して軽く消毒してから抱き寄せると、すぐに吸い付いてきて可愛らしい。 もう目の前しか見えていないような、一生懸命さはどこから来るのか。 「…ごめんナイル、何度も言うけどあんまり見られると困る」 「何度でも答えるが、息子の成長を見守りたい親心だ。気にすんな」 「親心で勃つなんて聞いたことないんだけど」 なんでこの男はいつもこうなんだろう… 妊娠が分かったその日から現在まで、とても良くしてくれるし理想の旦那の条件とやらは全て満たしてはいる。 だけど、残念なところだって多い。 「うまそうに吸いやがって…俺に勝った気でいるんじゃねぇよ」 「ぶ……びぇえええええええ!!」 「ああもう!なんで泣かせるのよ!ごめんねー、パパ怖かったねー?」 少し揺すって落ち着かせて。 もう一度飲ませようとするけれど、もう彼の気分ではないみたいで。 仕方なく肩に乗せるようにして抱いて背中を叩く。 赤ちゃんの食道は短いから、ミルクを飲ませたらこうして空気を吐かせないとさっき飲んだものを全部吐き出してしまう。 「すごい、飲んだらすぐ寝ちゃった」 「じゃあこいつも昼寝の続きだな」 「うん、お願い。私はちょっと絞ってからご飯の支度するね」 「んー…っああ!?」 「な、なに?」 「さっき、いま、なんて?」 「いや、ご飯作るよ。私ばっか寝かせてもらっちゃったもん」 「いいんだよメシくらい俺がやる。そこじゃなくて、何を絞るって?」 「これ。あの子あんまり飲まないから、余った分は絞らないとさ」 絞らないとぱんぱんに胸が張って痛いし、乳腺は詰まるし、何もいい事なんてない。 「飲む」 「え?ああ、サングリアならキッチンの」 「違う。絞るくらいなら、俺が飲む」 目がマジだ。 しまった、なんであんなこと言っちゃったんだろう。 「やだ…ナイル相手だと恥ずかしいじゃん」 「そもそもあいつが飲めて俺が飲めないなんて変な話だよな?俺のおっぱいだぞ」 「ごめん、私のなんだけど」 話も通じていない。 これはもう覚悟を決めないといけないだろうか。 さして美味しいものでもないし、一度味わえば満足してもうこんな駄々はこねないだろう。 溜息を大きくついて、再び胸元を緩めた。 「あんま見ないでね?」 「そりゃ無理だろ」 「じゃあ、あげな…っ、や…」 いきなり吸い付くなおっさん。 肩と腰に回された手が、離れることを許してくれない。 歯を立てないようにしてくれているのはわかるんだけど、要領が掴めないのか、多分きちんと吸えていないと思う。 試行錯誤して舌で突ついてみたり周りを揉んでみたりしているその行為が、不埒な気分を掻き立てる。 「やだ…ナイル、っあ!」 「お前、なんつー声出してんだよ」 「だって、っふ…あ」 気が抜けた一瞬を見計らって、そのままベッドへと押し倒された。 相変わらず、この流れはスマートだ。 「っ、出た!」 「そんだけ吸われてれば…んっ、」 「…甘ぇ」 何やら味を細かに伝えてくるけれど、そんなことをされたら余計に恥ずかしい。 ひとしきり喋って満足したのか、また口に含んでは吸っての繰り返し。 子供よりずっと厚くてザラついた舌を当てて吸い上げるから、その度に変な声が出ていたたまれなくなる。 頭がぼんやりして、ふわふわしているのに身体の芯から熱が溢れる。 「ナイ、ル…お願い…」 「なんだ?もう降参か?」 人が恥を忍んで誘ってるのに、なんだか余裕そうなその顔が気に入らない。 右手で、私に覆いかぶさっているナイルの太ももを撫で上げて、その先を軽く握る。 これでも駄目なら、と思っていたけど効果は抜群だったようで、すぐにその手を取られてキスをされた。 唇に歯が当たるし、吐息すらも飲み込まれるようなキス。 もう一年くらいしていなかったものだ。 「ふっ、あ…」 「チビが寝てる間にってのも燃えるな?」 燃えないよ。 「や、だ…ぁ…これ、恥ずかし…」 「もっと恥ずかしいことしてきただろ!ほら、頑張れ!」 「やだ…ナイル…っ」 ナイルは性欲にはとても従順だけど、私の身体をガラスか何かのように扱うところがある。 例えば、妊娠中は絶対に挿入しなかったし、強い快感も与えてくれなかった。 どちらも流産の危険があるからだと言っていたけれど、本当にそれを守り切れたのは凄いとしか言いようがない。 私の手と顎は酷使されたけども。 「だーから!入れるのはまだ駄目だけど、もう一つの方は解禁だろ?」 「だからってこんなのやだぁ!離し…て、っ」 「自分はしておいて俺にはさせないって不公平すぎるだろ」 「私からしたいなんて言ったことないもん!」 こんな大声でやりとりしているけれど、ナイルの顔は私の脚の間にある。 というかそこに身体ごと滑り込んで、両手のバカ力で閉じさせないようにがっちり固定されている。 「やだ…あっ」 「…大人しくしてろよ?」 為す術もなく下着すら取り払われてしまった脚に舌を這わせて、内腿に吸い付いた。 きっと跡が残ってしまっているに違いない。 それから一言告げて、先ほどから吐息のかかっていたそこをべろりと一舐めされる。 自分でも見ないようなところを間近で見られた挙句に舐められるなんて、羞恥心で死ねるなら今死んでいる。 だけど、気持ち良い。 ずっと刺激に飢えていたというのは否定しづらい。 私だって俗世の人間なんだから快楽のひとつくらい許されてもいいじゃない。 そんなバカなことを考える余裕なんて一瞬だった。 小刻みにキスを落としていって、一箇所、主張し始めた突起に吸い付かれる。 「ひっ、あ…ああっ!」 スープを飲む時だってそんな音を立てたことなんてないのに、これはわざとだ。 ただ押さえていただけの手が、太ももに巻きつくようになってより強固に固定さる。 脚なんてそんなにしなくても、もうあまり力が入らない。 強く吸い上げたと思えば舌で強く押し潰して、それから労わるみたいに舐めての繰り返し。 「や、ナイル…っ!離し…いっちゃ…」 私がなんて言ってもまるで聞こえていないみたいに、ずっと同じ動きを繰り返す。 単調なはずなのに、呆気なく達してしまった。 「っは…まだ満足しないよな、ナマエ?」 「ちょっと待って…んっ!待っ…て」 また全体を大きく舐められて、ぐっと脚に絡む腕の力が強くなった瞬間に、中に舌を差し込まれた。 「ふあ、ああっ…!やだぁ…」 派手な音ばかり立てて、加えて私が快感から逃げようと身を捩る度にベッドの軋む音もする。 舌を差し込む時に、鼻先がわざと突起に当たるようにしてくる。 しかも、私が嫌だと言うたびに戒めのようにぐにぐにと刺激される。 使えるものは何でも使うと普段から言っていたが、こんなところで活用されてもおかしくなるだけなのに。 さっき達してから時間をあけていないから、身体は過敏になっている。 そこにこんな刺激を与えられて、みっともなくまた達した。 びくびくと跳ねる脚から腕が離れて、ようやく解放されるかと思えば、ごろりと身体をうつ伏せにされる。 わけがわからないまま腰を持ち上げられて、ナイルにお尻を突き出す格好になってしまった。 「いやー、絶景だな」 「やだっ!ナイル!恥ずかしい…」 「恥ずかしくさせてんだよ。俺にも付き合ってくれっと嬉しいんだが、いいか?」 返事なんて待たずに、先程まで散々好き放題されたところにまた別の熱を感じる。 挿入はしないっていっていたのに、まさか…と思ったのも束の間、それは太ももと秘部の隙間に捻じ込まれた。 「素股、って聞いたことあるか?昔、東洋で発生したプレイらしいぜ」 「や、っああ!熱い…はっ、あ」 「太もも押さえるけど、痛かったら言えよ?」 ここでそんな優しさをアピールしなくていいから。 ナイルの熱が行ったり来たりすると、その都度また声が抑えられなくて。 いくらかそれを繰り返していたけれど、彼が達する気配は一向に感じられない。 「…すっげ、気持ちいいんだけど、なんか、足りないっつーか…」 「っ!やだ!ナイル、ちょっと離して!おっぱい溢れてきちゃった」 「悪い!掴んだからだよな?痛くないか?」 そう言えばまた仰向けにされて、胸を凝視される。 別に掴まれたというより軽く揉まれただけだから痛くないけど、揉まれればそれだけで出る仕組みだから仕方ない。 「…これだ」 「へ?な、なに?」 「脚、まだ閉じててくれるか?」 そう言って、今度は仰向けのまま素股とやらを再開された。 脚を閉じないといけない分いつもより体勢がキツいけれど、確かにバックよりずっといい。 だって、ナイルの顔が見えるから。 少し眉を寄せて、熱っぽい瞳を向けられて、それだけで身体中に電流が走る。 それはどうやらナイルにとっても同じだったようで、何往復かすると熱は爆ぜた。 「多少ブランクがあっても身体は覚えてるもんだな?」 「覚えてるも何も、あんなの初めてしたじゃん!」 「スローセックスも悪くないよな」 「聞いてんのかおっさん」 「痛い痛い痛い!やめて!髪はやめて!エルヴィンになっちゃうから!」 本当に、空気の読めないピロートークをさせたら天下一だ。 簡単に後処理をして、今はナイルのシャツを羽織っただけの格好をしている。 シャツを私に提供してくれたナイルは上半身裸で、なのに下はきちんと着ている変な格好。 意外にも鍛え上げられた身体は、そこだけ見れば20代みたいだ。 「おっさんの割に、いい身体してるよね?」 「惚れ直した?ねえねえ惚れ直した?」 「まあ、うん…」 「お前…そこで素直に頷かれると止まんなくなるだろうが…」 またナイルが覆い被さって、唇が重なる。 軽く啄ばんで、舌先でくすぐりあって、互いの髪を乱し合う。 「ふえ…びゃああああああああ!」 どうやら息子が目覚めたらしい。 笑いあって、もう一度軽くキスをしてからナイルが離れた。 「班長、ウォールベビーベッドに0.5m級を発見しました!」 「すみやかに接近して状況を確認せよ!恐らく下半身の不快感から泣いていると思われる」 何をしているんだか。 世界が平和になった今、こんな幸せに慣れてしまいそうだ。 吉井和哉/CHAO CHAO |