版権創作短文


2013/11/11 03:27


辺りは一面暗闇だった。

幾分目を瞬いても光を感じとれない真っ暗闇だ。
迂闊に足を進めるのは危険だとかここは一体ここはどこなのだと妙に冷静な自分がいた。
手を目の前にかざしてみると真っ白な袖口が微かにぼやりと見えてどうやら視界が奪われたのではないらしい。
「ふむ」
ぐっぐっと右手左手と指を握って開いてを繰り返す。筋肉が血の流れに沿ってきゅっと動くのを感じた。
次に膝を曲げて伸ばす。
久しぶりに動いたとばかりに間接からぱきりと軽い音が鳴る。
そのままゆっくり息を吸って吐いてというリズムにあわせて屈伸運動を数回繰り返す。
どうやら身体に異常はないようだ。
己を見やると依然目は慣れないが白い制服はほんの少しだけ暗闇を跳ね返しているのがわかった。
「さて」
1つ1つ事態を脳内で確認していくうちにわからないことがぽつぽつ浮かぶ。
僕はいつからここにいるのだったか。
僕はどこからきたのだろうか。
そんな単純な記憶を辿ろうにも思考を栓で塞き止められたように何も思い出せない。
いや、全てを忘れたわけではないのだ。
自分の名前、年齢、肩書き。超高校級の何たるかを。僕は僕としてここにいるのだ。
その当たり前の事実は確実にある。だがどうして僕がこんな場所にいるのかはわからない。
眉間に指を添えてもう一度深く思考を潜ろうとしてもガラスで仕切られた水槽のようにそれ以上深く潜ることは叶わなかった。
自分の記憶さえ思い通りにできないのかと自分が情けなく苛立たしい。
「どうして…」
思わず呟いたその声が暗闇の中で反響した。
その問いかけに返答をくれるような優しい回答者がいるはずもなく虚しく音は消えていく。消えた音の後を追って溜め息が絡む。
だがそれでもこの空間がわりかし狭いらしいことを思いがけず知ることができたのでよしとした。
しかしどうにもこうにも訳がわからないことばかりで唸る事しかできない。
考えてもわからないのであれば体を動かす他ないと思い立ち、僕は意を決して一歩前へ足を進めた。
ブーツ越しに伝わる感触は固く冷たく無機質な物であった。やはりここはどこかの室内なのだろうか。
一歩前進すると体は動作に沿い軽く軽く進んでいく。
その間も自分の脳内をぐるぐると回転させるが現状は変わらずだった。
自分らしくもない二度目の深い溜め息がもれ出た。
距離にして見れば数十mだろう、進んだところで僕は目を見張った。
白い、
白い輪郭が暗闇の中で発光するようにそこにいた。
「きみは」
思わずその白い存在に話しかけてから頭がその存在の認識を始める。
軍服を模した少しだけ丈の短い真白い制服、一分の隙もなく綺麗に編み上げられた黒く光るブーツの爪先、腕にはピンで留められた腕章。
「な……………」
その腕章にかかれた文字は読むまでもなく知っている。
風紀、と白く光る文字に目眩がした。
「おせぇよ兄弟」
「君は、君は…」
俯いていたらしい「彼」が口を開き僕の方へ顔を上げた。
色の欠片もなくなった雪の様な短い髪とぐりんとした大きい目は炎の如く赤く燃えている。そしてどこかで見たきゅっと伸びた長い睫毛をした、
それは誰でもない僕の姿だった。
「君は…誰なんだ…?ぼく…僕なのか…?」
「おいおいせっかく感動のご対面なんだからよォ?そんな無粋な問答は後にしろよな!」
ぐわんと跳ね返る声も僕と同じ。同じ声で僕と違う口調は、どこかで聞いたような喋り方だと思った。
「ま、どうせそんなこったろーと思ってたぜ」
彼は一つ咳払いをして
「俺は石田だよろしくな兄弟」
にかっと笑ったその顔は僕の顔であって僕ではない
『彼』の笑顔で、

失ったあの笑顔で、

ガラガラと崩れ落ちるような記憶がうるさかった。
「兄弟…………」
「石丸」
「兄弟…兄弟…兄弟…!」
「おう」
「兄弟…!!」
僕は笑ったままの「兄弟」の胸に飛び込んだ。
「心配したのだぞ兄弟!ああ!君はこんなところにいたんだな!」
「一人にして悪かったな」
「でもよかった、兄弟にまた会えたのだからな!」
なんて嬉しいことがあるのだろう!
喜びに内震える心中とはよそにチカチカと何やらかを叫ぶ脳内が煩わしくて邪推だった。
僕はぶちりと脳内の思考を引き契りただ愛しい「兄弟」の胸に抱かれ微睡みに溶けていった。




「い、石丸くん?」
「俺は石丸じゃねぇ!俺は!俺なんだ!」



石石ちゃんは一つになりましためでたしめでたし

2013/05/22 06:21

一カイがシチューを食べたい

「なあ一条、お前シチュー好きだっけ」
「シチュー?」
「うん、ホワイトシチュー」
「嫌いだ」
「そうだな、俺もカレーがいい」
「カレーか」
にぱと笑う彼の笑顔は精巧なお人形のようで、俺にとって気味が悪いものでしかない。
「カレーは好きだよ」
「まあ晩飯はシチューだけどな」
お綺麗な笑顔はあっという間に下衆の顔に変化する。
「使えねぇなクソ野郎」
「あいあい」
シチューもカレーも大差ないと俺は思うけどまあ確かに色は違うかなあとぼんやり考えながらガスコンロをガチリと鳴らす。
昨日彼が夜勤の為に食されなかった哀れなシチューくんを温めるだけ簡単クッキング。
「シチューも熟すとかあんのかなぁ」
微かに白く分離した冷たいシチューがとろとろと鍋の中で混ざっていく。
呟きながらお玉を持って鍋の前に立つ。
すると彼が背後に近づいてきて、鍋の中を少しだけ覗いた。
「あっても俺シチューは嫌いだ」
「ハヤシライスは?」
「すき」
「ビーフシチュー」
「許す」
「クラムチャウダー」
「殺す」
こいつは色で判断してるんだと思う。
「一条皿とって」
二人分の中身は温まるのにそう時間はかからない。
「俺の分少なめでいいぞ」
「そういう振りやめろよな」
受け取った深皿に並々にシチューを注いでやると、白いシチューに白い湯気が立ち上がる。
「たくさん食べろよ一条」
「カイジくんのそういうところ嫌いじゃないけど後で殺すからな」
「俺も一条のそういうとこ好き」
そういう結局その皿とスプーンを持って食卓につくところとか。
和みながら自分の分もよそい食卓に腰を据える。
改めて二人で向かい合って座るとちょっと恋人チックに感じるかと思ったけど別にそんなことはなかった。
「いただきます」
シチューを軽くスプーンですくって口に運ぶ。
可か良にしかなり得ない市販の味わい。
「なぁカイジくん俺米も食べたいんだけど」
スプーンでカチャカチャと音を立てながら、微妙に皿の中身を睨み付け俺に言ってくる。素晴らしい行儀の悪さだ。
「え?食えば?」
「おかずがねーだろ殺すぞ」
「シチューあるじゃん」
途端にはァ?と顔芸をされた。
「シチュー!で!米は!食えないだろ!あ!?」
「一条スタッカート上手いな」
「褒めんなよ照れる」
「今後はスタッカート条と呼ばせて頂こう」
「安易なネーミング過ぎて最早ちょっと可愛いから許すよ」
じゃなくて!とスタッカート。
「シチューライスはねーよって話をしようぜカイジくん」
「あるだろ」
俺がキッパリ断言すると少しためらった様子で思案している。
「無いな。無い…無…無い…」
無かったらしい。
「だってカレーもシチューも大して変わらないモンだろ」
「お前それキャベツとレタス混合するくらい罪深い発言なんだけど」
「尚更一緒じゃん」
「カイジくんが馬鹿すぎて俺は今日の飯がまずい」
「おっなんかラノベみたいなこと言うんだなラノベ条って呼ぼ」
「うるせぇドジっ子属性」
「シチューご飯ってあるじゃん」
「ねーよ」
「俺の家にはあった」
「うわぁ」
「無かった?」
「家はカルピス5フィンガー層だからな」
「何だよ白いのいけるんじゃねえか」
「何の話だよ唐突な下ネタとか照れるからやめろよな」
「うわ気持ち悪ぃ」
「誰かさんが営みを嫌がるせいで欲求不満なんだよ」
「へぇそのまま今度去勢してもらおうぜ」
「そんなにメス犬にされたいのかよ」

後で続く

2013/02/21 01:08

冬だ。
冬は寒いという至極当然な事実は僕だってわかってはいるんだ。
わかってはいるし、特別嫌いってわけじゃあない。好き?と聞かれたらまた別の話だから答えはしないけれどね。
だけど!
どうして!こうも!
「なァ露伴ー今日寒いしよォ鍋とかにしようぜー」
「とっとと帰れよこのスカタン!!」
寒いからって寄り付くうっとおしいバカがいるんだ!?
頭の中身まで凍って砕けちまってるんじゃあないのか!
「え〜外大雪だぜ?そんな中家まで遠〜〜〜い道のり凍えて帰れって言うんスかァ〜?」
「そんなの知ったことじゃあないねッ!お前が勝手に押し掛けたんだからな!」
そうだ。こんな日にこちらの都合も考えず無理矢理乗り込んで来たクソッタレ仗助が悪い。自業自得だ因果応報だ。
「こんな大雪だしもし露伴が雪に埋まっちまったらカワイソ〜だなーって思ったんスよ」
「君は救いたくもないバカだな?僕がどうやったらこの快適で暖かくて広くて丈夫な家の中にいて雪に埋まるっていうんだ?」
「屋根に穴空いたりして〜〜」
「お前くらいしかそうそう穴なんか空けてくれる奴はいないだろうが!」
僕が詰ると数拍置いて空いても直してやりますよォ〜なんて仗助がへらりと笑う。
コイツやっぱり空ける気だったのか!
「クソッタレが…」
「まぁそんな事はいいんだけどよォ露伴…なんでこの家こたつねーの?」
「は?」
「こたつ」
「そんなもの必要ないさ、電気代と怠惰の権化だろあんなもの」
仗助がぎょ、と目を見開く。
「あんたそれでも日本人か!?」
「お前だって半分日本人じゃあないだろう」
「俺の話はいいんスよ!え〜〜じゃあ何だよ?露伴センセーこたつ入ったことないんスか?」
「僕が小さい頃は家にもあったさ」
小さい頃こたつに入った記憶は確かにあった。
ぬくぬくとまどろみながら当たっていた温かみも覚えている。
「けど自分で用意しようとは思わないね」
「えぇ〜…温かいじゃんこたつ…」
「ここは僕の家だ。お前の家じゃあないんだから関係ないだろ」
文句があるならさっさと帰ったらどうなんだという話だろうさ。
「でも康一とか呼んだときどうすんのよ」
「康一くん?」
思わず身を乗り出し聞き返す。
「康一も寒い部屋にあげる気なんスか?露伴ってそんなに冷たい奴だったんスね…」
「おい待てよ!僕が康一くんにそんなことするわけないだろう!こたつくらい出すに決まってる!」
ハッと言ってから気付くと仗助はニヤニヤと笑って僕を見ていた。
「んじゃあ買いに行きましょ?せーんせ?」
僕はコイツのこういう部分が大ッッッキライだと改めて実感した。

2013/02/21 01:03

「何でも願いを聞いてやろうって」
「へぇ」
「3つだなんて迷っちまうよなぁ」
あれもこれもなんて指を折り呟くのは彼だ。
「それで君はまんまと敵の術中にはまったわけか」
「それがファンタジーってもんだぜ」
いつだか言った僕の台詞を軽く否定された。
「最後の願いはかなったしな」
心底嬉しそうに彼は言う。
アヴドゥルさんは生きていた。それは僕にとってもとても喜ばしい事だった。
「で、お前は俺を騙してた、と」
むす、と口を結び指で学ランの胸元をどすどすと突かれる。原始的チャリオッツ。
「何回も言ってるだろう。アヴドゥルさんのことは万一でもばれてはいけなかったんだ」
「俺がホイホイ喋るってのかァ!?」
「そうじゃあない」
いいか?
と突き出してくる指を右手で握り押し返した。
「99%と100%じゃ次元が違うんだ。君だってその意味とをよくわかっているはずだろ」
「う」
それは納得の唸りなのか。
僕は握りしめた彼の指に左手も添える。
「ねぇポルナレフ、君はさっき3つの願いと言ったな」
「な、なんだよ、話そらしてんじゃあねーぜ」
「アヴドゥルさんを生き返らせるってのが願いだったんだろう」
「だからなんだよ」
僕は指を放し今度は手ごと握りこむ。
「その立場が僕だったなら君の3つに僕は入っていたかな」
「はァ?」
「君は僕を求めてくれていた?」
「オイオイオイオイ」
女の子じゃああるまいにと彼は僕の手から逃れようとする。
「ポルナレフ」
「花京院、お前」
「僕は」

君の願いになれる かな

僕は君を放さないけれど
君は僕を放さずいてくれるだろうか?

2012/11/27 16:23


日差しが暖かい気持ちのよい日でした
ひゅうひゅうと歌うそよ風の中でわたしは立っていました
頬を撫でる冷たい風がまるで揺りかごのようでわたしの居場所はここなのだと言っているようでした
すぅと息を肺に流し込むと勇気というべきか行動する力が満ちます
ああ、信じてもいませんがもしそこにいるならば神様、わたしはあなたのくれた命の目盛りを満たすことなく終えようとしています
そんなわたしを許してくれますか神様
わたしをうみそこねた神様
神様の返事なんか聞こえるわけもないけれどごうごうと風が荒く吹き付けました
それが答えなのでしょう
高い高い柵を越えた屋上でわたしは最後の会話をしたのです

走馬灯とでも呼べばいいのでしょうか
短い人生の思い出が脳内にぶわぶわとわきあがりわきあがり気が付けば少しの間立ちすくんでいたようで
ぱちんと弾けるように思考の泉を止め辺りを見渡しました
そこで横に少女が立っていることにようやく気付きました
「ねぇ、危ないわよ」
わたしはその少女につい話しかけてしまいました
今から落ちようという人間が言うことじゃないなと自分でおかしく思いました
しかし最後の会話が見ず知らずの少女というのも悪くないと思えました
短い黒髪が利発的な雰囲気を与える少女です
近くでよく見かける紺の制服だったので大体の年齢は予想できました
「あなた学生さん?」
「学生でもないのに学生服を着る輩はいません」
「それもそうねごめんなさいね」
「お姉さんは」
「なぁに?」
「今からなにをしようとしているのですか」
「盛大なお別れ会よ」
「そうですか」
お姉さんだなんてと呼び名にうきうきとしながら答えを返すと彼女は目を伏せました
「どうしてお別れするんですか」
「わたしはいけないことをたくさんしたわ」
「いけないこと」
「人に嫌われるってのはいけないことよ」
「そう思うんですか」
「ええ」
わたしは一人だから消えるのです
「じゃあお姉さんと一緒に行けますね私」
小さく呟く声に思わず少女を見やると
あろうことかその娘は自分の舌をべえと突き出し
ぶちりぶちりと根から噛みちぎるのです
「やめなさい」
喉奥から声が叫び出ました
「死んでしまうわ」
すると娘は虚ろいだ瞳をこちらに向け赤黒く染まった口から絞りだすように千切れた舌で言葉を出すのです
「死ぬためにこうしているのよ」
それはすでに言葉というよりもうめき声に似たものになっていてわたしは唇の動きと重ねて憶測で彼女の言葉を並べ組み換えました
「早く手当てを」
「まだ助かる」
駆け寄ろうとするわたしを彼女は睨み付け
「あなたもいまからしぬんでしょう」
金づちで殴られたような衝撃でした
そんな大事なことを忘れていたなんてどうかしています
ガクガクと足が震えました
「そうだけどでも」
でも?
「だから一緒にと思って」
「あなたは死んじゃいけないわ」
「あなたも死ぬのに?」
わたしもしぬのに。
喉元に熱い石が詰まったように息が苦しくなり急に涙がじわじわとしみでました
この少女はこのままだと死ぬでしょう
同じようにわたしもいまからしぬんでしょう
「ああ」
わたしは

あたしは

あたしのかわりにこの子はしぬんだ

そう思いました
「お姉さん」
彼女の足元はぐらぐらと揺れています
呼吸といえるようなものではなく血に邪魔されごぼごぼと泡立つ呻きでした

「一人はさみしいよ」

わたしは一人だった
少女は一歩足を前に踏み出しました
その先はもちろん足場はなく空中です
ああという暇もなく少女は落下しました
ああと声を出したときには地面に叩きつけられ肉塊になって飛び散っていました
「あたし、あたし」
しにたくないよ
ああなりたくないよ
助けて

わたしは震えながらフェンスを再び登り
屋上の床へ戻りました

そして翌朝のニュースにはただ一人の学生が死んだと伝えられていました

そこで初めて彼女の名前を初めて知り
わたしはそっと祈りました
次は正しく生まれてこられるように
わたしはまだ生きていようそう思って今日も鏡に向かって口紅を引いた


『少年がその男を死から留めた』
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