心中






「ねえシズちゃん、話し聞いてる?」
「ああ」
「聞いてないでしょ」
「ああ」
「……」
明らかな静雄の生返事に、臨也は苛々して片眉を吊り上げた。
静雄はさっきからテレビの前から動かない。
傍らには大好きなプリンが置いてあったが、それすらも手を付けていない。
それもそのはず、いま彼の見ている番組には大事な大事な弟が出ているのだ。
…ああ、もう。ムカつくなぁ。
血の繋がった人間相手に馬鹿馬鹿しいが、臨也は嫉妬してしまっている。
液晶越しにしか殆ど会えない兄弟なのだから、ある程度は仕方がないなと思いつつも、やはりムカつくものはムカつくのだ。
「シズちゃんはさ」
「ん」
「弟と俺が死にそうになってて、どちらかしか助けられなかったら。どっち助けるの」
「幽」
即答されてしまった。
静雄はぺりぺりとプリンの蓋を剥がして、甘い柔らかなそれを食べ始める。その間も視線はテレビから動かない。
臨也は溜息を吐いてもう静雄に構うのをやめた。
仕事でもしよう、そうしよう。
そう思ってパソコンがある部屋に行こうとすると、
「臨也」
「…なに」
「幽が助かってお前が死んだら」

俺もお前の後を追って死んでやるよ。

静雄はプリンのスプーンを口に銜えたまま、やはりテレビから視線は動かさない。
「……っ、」
臨也は自分の顔が瞬時に熱くなるのが分かった。
…本当にシズちゃんはムカつくなぁっ
臨也は赤い頬を押さえ、乱暴に扉を閉めて出て行った。


100804 21:45
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